こちらのページでは、株式会社技術評論社発行の隔月誌「Web Site Expert」にて、2007年より連載の関心空間ファウンダー 前田の対談記事を、技術評論社の許諾とご協力を得て転載、ご紹介いたします。
なお、本文の文章は本誌掲載時の状態を優先しますので、当サイトでご紹介するに際しては敬称など一部不自然な点もございますが、ご了承下さいますようお願い申し上げます。

毎回,さまざまな分野の方をゲストに迎え,『関心空間』代表取締役前田邦宏氏との対談を繰り広げる『Web Site Expert Academia』.
今回は,5月20日に行われた東京ミッドタウンでの公開対談の模様をお届けします.
撮影:武田康宏
2007年 7月24日
前田:
今回,なぜアニリール氏に対談相手になってもらったかと言うと,僕は以前から彼が地球の地上から宇宙につなぐ固定されたエレベーターについて論文を書かれている方だとは知っていました.けれども彼の著書『宇宙エレベーター』※注には,その構造物に関する手法は全然書かれていないんですね(笑).工学的なことが書かれているかと思って読んだのですが,それよりも,人生を豊かにする方法について書かれている本だという印象を強く受けまして.これはまさしく,僕が行っているセレンディピティーの研究——世界の上に新しい構造物を作って,人類や世界全体の未来を少しでも幸福にすること—の知恵がそのまま1冊の本に書かれている,と.これは我々Webアプリケーションを作る人間にも非常に参考になるのではないかということで,私自身もこの本からいろいろと勉強させていただきました.
今日はその本を書かれた方に実際にお会いして話ができるという非常に光栄な機会をいただけましたので,まずは私自身がやっていることを引き合いに出して,それからいくつかご質問して,Webアプリケーションを作る際のヒントにできたらと思います.
前田:まずは私の紹介から.私自身はインターネットの技術者というより,もともと人との出会いや関係を視覚化することを目的にさまざまなアプリケーションをいくつか作りました.それはお金にはならなかったのですが,非常に出会いが増えまして.今この会場に何人かいる友人達ともそれを通じて出会ったんですね.現在は『関心空間』という会社で,人との出会いを促進するその部分に着目してビジネスを展開させようとしている経営者です.そういったイノベーションを作ることが僕のテーマです.
しかし,これが非常に難しくてですね.出会うことは喜ばしいのですが,これがビジネスなどの形に変わることが予測不可能なアウトプットで.今まで私が本を通じて拝見した中で,アニリールさんは非常にセレンディピティーが多い方かと.たとえば,タイムマシンを作ろうとか,それを形にしようなんて非常に抽象的なテーマにもかかわらず,周囲の人をうまく巻き込んでしまうという才能の達人だとお見受けしたんですね.そのあたりのご自身の体験などをお聞かせください.
アニリール:ではタイムマシンの体験の話から始めましょうか.私はドイツ生まれのトルコ人です.8歳までドイツで家族と一緒に暮らし,そのあとスイスの学校に呼ばれて,その学校の寄宿舎で過ごしていました.そこでの素行があまり良くなくて,15回停学,16回目で退学(笑).私も入れて仲間13人で一緒に退学になったんです,理由は言いませんが(笑).そこからタイムマシンを作ろうという話が持ち上がって,実際に作って,実験もして….数年後,24歳のときに初めてタイムマシンを作ったということで仲間とアメリカで賞を貰いました※注1.
なぜそういうことが計画・実行できたかと言うと,仲間との素晴らしい出会いがあり,お互いを大切にする思い——“また会いたい”という気持ちが強かったからです.国際学校だったので,皆外国の子供達なんですね.なので,退学した後はそれぞれの国に戻らないといけなかった.私たちは,カナダ,コロンビア,イタリア,フィンランド,トルコ,ドイツ…皆違う国の出身でした.なので,それぞれの国に帰ってしまったらもう会えない,会うためには何かをやらなくちゃいけない,そういう理由でタイムマシンを作るという行動にまで至ったんです.それはすごく人間的な気持ちだと思うんですね.タイムマシン自体は創造力です.出会いと創造力とお互いを大切にする気持ち,その3つがあれば自然と良いものができると私は考えていますし,ずっとそうしてきました.
前田:その話はすごくよくわかります.自分に置き換えて思い起こすと,うまくいかなかったときはそのうちのどれかが欠けていて,いったときはそれが揃っていた.『関心空間』もそうですし,これまでの他のこともそうでした.
編集部:『宇宙エレベーター』の中には,ケルンのコンテストの話※注2もでてきますよね.どういうきっかけでああいったものを作ることになったのか,当時はまだ先が見えていなかったと思うのですが,その時点での思いつきやひらめきというのは,どういう段階で出てくるのか,それを形にするには何が必要だとお考えですか.
アニリール:スタジアムの話ですね.私が8歳のときに,子供が新しいプロジェクトを考えるという科学コンテストが小学校で開催されたんです.私はそのときからサッカーが好きで,父に仕事の後,試合によく連れて行ってもらいました.夜の試合だったので,場内にものすごい数のライトが点いていて.それを見て,これはものすごくエネルギーを使っているんじゃないかと考えたんですね.当時,'78年にNASAのある研究者がドイツで書いた記事——もし未来にこういうパネルがあったら,その上に光を当てて電気を作れるようになるかもしれない——という内容をすごくおもしろいと思っていたので,そのスタジアムのライトを見たときにひらめいたんです.そして父に少し手伝ってもらいながらその模型を完成させ,その結果,賞を貰ってスイスの学校に行くことになるのですが. それとの出会いは1つの記事ですよね.それも,ああ作るべきこう作るべきといったものではなく,“いつか”こういうこともありうる“だろう”という内容の記事ですよね.
編集部:それは好奇心のようなものでしょうか.
アニリール:好奇心と,あと勝ちたいという気持ちですね.それはすごく大切.皆と一緒にやっていくのもすごく大事なことですが,「この賞をとりたい!」「これがしたい!」という気持ち.これはワガママではなく.勝ちたいという気持ちがないと,好奇心や創造力を持っていても何もできないですね.「いつかこうだったら良いね」と想像してそのあと何もしない…ただの創造力だけじゃすごくつまらないと思います.なので,勝ちたいという気持ちをきちんと感じることができたら,うまくいくんじゃないかなと思います.
前田:アニリールさんは宇宙飛行士候補という肩書きもお持ちですが,宇宙開発に関してのプロフェッショナリズムというか,宇宙開発をどう捉えているのか,考えをお聞きしたいと思います.また,宇宙という,人間が本来は踏み込めないところに行くにあたって,そこにはさまざまな努力があると思うのですが,それをNASAはどう乗り越えているのか,なぜ日本ではあまり開発が進んでいないのかも気になります.
アニリール:日本はとにかくバジェット(予算)!ですね.アメリカのNASAの場合はすべてのバジェットの4%が宇宙開発に充てられていますが,日本の場合は0.02%です.だからいくら頑張っても予算の問題がある.あと,日本がこれから何を目的にしているのかということです.たとえば,アメリカは月や火星の研究を進め,結果,月に行って帰って来れた.これは何のためかとよく言われるんですよ.たとえば,2002年にヒューストンでスペース2002という学会があって,我々も行ったんです.朝,会場のドアの前にグリーンピースの人が何十人もいて「ここに入るな」「ここに入るお金をアフリカに寄付しましょう」と言っている.
確かに,彼らの気持ちもわからないことはありません.けれど,我々は別の考え方をしています.と言うのは,宇宙開発に関して,日本はまだですが,アメリカが行っていることは技術移転です.1つの企業があって,そこから新たな技術がもらえて,その技術をまたうまく他の企業に紹介していくという流れは,まだ日本ではない.さっき出た宇宙エレベーターの話も,実は技術プロジェクトの話なんですよ.実際に作るということを目的にしているのではないのです.3万6,000キロ超…と続く宇宙エレベーターを作る技術は,他の分野でも応用できますよね.
さっき出たグリーンピースの場合「お金をアフリカに送ろう」と言っていますが,実は今アフリカの人達は宇宙開発のおかげで水を飲めるようになっているんですね.スペースステーションのために作った水処理システム—水をリサイクルする技術—がすごく安くなったので,そういうことが可能になっているのです.他に技術移転というと…たとえば,携帯持っていない人います?(会場に聞く)いないですよね.それも実は宇宙開発技術の一種,月に行ったときの開発技術です.だから,アポロが月に行かなければ,携帯というものはなかったんですよ.宇宙開発というものは実は我々の生活にいろいろと入っているんですね.日本もここの部分をはっきりさせることができたら,宇宙開発が進むのではないでしょうか.
でも,将来私の子供達が宇宙に住むようになるかと言うと,ちょっと難しいですね…だって宇宙に住む必要がないですし.だから僕が宇宙に興味を持っているのは,そういうプライベートな部分ではなくて,創造力.その先に何があるのか,そこで何かを実現するためにはどういう問題があるのか.それを今現在我々はこの地上でどうやって応用できるかということです.
アニリール:出会いといえばインターネットの話ですね.あれはいつ発見されたものですか?世界中に広がったのはいつですか?
前田:'90年代にさわり始めた人はどれぐらいいますか?(会場に問いかける,ちらほら手が挙がる)ああ,じゃあ'90年代ですかね,日本では.冷戦時代にARPANETという軍事色の濃いものが大学間をつないでいて,それが'70年代に商用化と言いますか一般化されて,そこから広がり始めたと僕は聞いています.
アニリール:いや,それはそうなんですけれども.インターネット自体は宇宙が生まれたときから存在していて,それは科学で説明できる.ずーっとあったわけですよ.10年前に我々の技術がやっとそれを使えるようになっただけで.もし使うことができたとしたら,1,000年前にもありましたよ.私が言いたいのは,これから先のまだわからないことは,実は目の前にあるということなんです.科学というのはそれを発見するための1つの道具にすぎない.技術的に,これから人間の生活を変えていくものが実はいっぱいあるんですよね.インターネットという技術自体が100年前に使えるようになっていたら今頃どういう世界だったか…僕はそういう想像が好きですね.
前田:ちょうど昨日,古い本を引っ張り出して見ていたのですが,この話で思い出したのが寺田寅彦※の本の内容.彼がある日通信技術の話をしたら“それ,2,000年前にモンゴルで開発されていたよ”と言われたらしいんです.確かにそうなんですよね.多分のろしのことを言っていると思うのですが,技術的なものではなく,通信/プロトコルというもの自身は2,000年前にはすでに存在していて.それがのろしからパケットに変わっただけ.そういう内容を,100年前に生まれた彼も50年前にすでに議論をしていて.
つまり,あたかも自分が最先端の技術に囲まれていて,誰もやったことのないことをしている,とうぬぼれてしまうところが僕にもあって.それで古いものを読むとハッとするんですね.未来を想像するときに古典を読むと見えてくることが僕は多いのですが,アニリールさんはどうですか?
アニリール:古典ですか.私が日本で一番好きな古典は古事記ですね.途中から天皇の話になって難しくて読むことをやめちゃったんですが(笑).最初のほうはすごくおもしろくて,神話の世界のこととか,私の知っている文明に出てくるような内容がたくさん出てきて.あれは,書かれていることをどういう意味で受け取るかが大切ですよね.こういう読み方もできるんだけれど,こんな読み方もできる.興味を持っていろんな角度から調べて,目標を持って考えてみると,我々は歴史を全然知らないんだ,知らないものがたくさんあるんだという気持ちになれますよね.そういうのもまた楽しいです.
たとえば,これはよく使っている例なんですが,これから先の世界に3つの発展形があるとします.1つ目は,このまま何も変わらず少しずつ前進していく世界.2つ目は,戦争などが生じてそれぞれ自国を守ろうとする悪い支配のはたらく世界.3つ目は,何かの拍子で科学がものすごく進歩して,現段階で想像さえできないような世界.ここで,2つ目の発展形をとったとしましょう.原爆のような恐ろしいことがあって,たった1冊の本だけが世界に残ったとします.その唯一残った本が…最近私が読んだ本を例にすると『女性が男性と出会う20個の法則』(笑).この本の内容は,どうやったら女性が素敵な男性と出会えるかというもので,たとえば,朝に自宅でお茶を飲む習慣を,出会いを増やすためにはスターバックスとかの外のカフェで行うようにしろ,というようなことが書かれているんです.まあ,それで100年後にですよ,すべての本がなくなって,この本だけ残った.人間がゼロの状態からスタートして,残っているのがこの古典…人類の4,000年前の行動.“へぇー,スターバックスってなんだろう”みたいになるんじゃないですか(笑).ここで言いたいのは,1冊の本に頼ることは危険で,いろんな情報を得ようとすることが大切だということです.それも出会いの1つですからね.
前田:ご自身で進められているプロジェクトについて少しお伺いしたいと思います.僕はあれはすごく技術に根ざされた発想だと思っていて.彼(ア二リール氏を指して)は東大を中心にインフラフリーというプロジェクトをされていまして,私はその様子を本で数カット見ただけなんですが,けっこう衝撃を受けたんですね.船の上で生活できて,かつエネルギーを限定的なものに依存しないということをされていたということが.そのプロジェクトについてお聞きしたいなと.
アニリール:我々が現在住んでいるところは,水道や電気などインフラに依存している部分がありますよね.プロジェクトは,それがなくても自立的生産技術をもとにした未来の居住空間を作ろうという試みです.
そこで私達が研究したい分野は3つあります.1つは仮設住宅です.たとえば地震があって,日本だけじゃなく世界中で住むところがなくなったときに,人間の必要な水があり電気がある,そういうインフラフリーの仮設住宅が提供できないかということを考えています.
2つ目はスラムに関して.今ナイロビにキベラというスラムがあって,オフィシャルでは60万人,けれども実際は120万人が住んでいるところです.そこが言葉では説明できないものすごい環境で….たとえば“フライングトイレ”という言葉があるんです.そこの道を歩いていると,何かが飛んでくるんですね.その地域では120万人——オフィシャルには60万人——のうち,トイレを持っている人が1人もいない.そういうインフラもない.だからビニール袋の中でして,一番近いところに…となるんです.その光景を見て,インフラフリーはもともと仮設住宅のためにやろうと思っていたのですが,それをやめてとりあえずここを何とかしたいという気持ちになって.スラムでもサニーステーションという衛生的なところが,簡単で安い技術でできるんじゃないかなと思っています.
3つ目は,これはすごく日本と関係があることですが,郊外の人口がどんどん減っていくとある町や田舎がなくなるという可能性が出てくる.今日本では市町村がたくさん合併していますよね.でも,いくら合併しても,大家族の家庭がなくなっていて,1人の家庭がものすごく増えているんですよ.つまりゴミ問題がすごく増えるんですね.1人の家庭のほうが2人の家庭よりもゴミをたくさん出しますから.こういう状況を見て,これからの郊外をどうやって開発するのか.
この3つですね.この3点を踏まえて,小さいモデルを2008年までには作るというプロジェクトです.
前田:お話を聞いているといろいろと気付かされます.要は,技術は華々しいほうに行っているような感じがあって,それはインターネットも例外じゃないなと.Web 2.0とかいう言葉もすごく脚光を浴びてはいますが,それを享受できる人の数の少なさに非常に問題があると思うんです.つまり,そこのインフラの土台も持てない人が世の中にはいっぱいある.そこはその内部事情までいかないとしても,インターネット環境を安価に提供して生活に豊かさを提供するという仕事があるかなと思います.
今度モンゴルに行こうと思っているんです.彼らはようやく携帯を持ち始めたくらいで,そこをネットでつなげるという話が来て,すごく面白いなと思って相談に乗っているのですが.モンゴルは国力で言うとすごく弱くて,僕らがPCにかけられるお金も彼らにはないと思うんですね.でも,やっぱり自分の子供を教育したいとか世界を見せてあげたいとか,そういう気持ちはモンゴルの親御さんにもあると思うんです.今後,何かきっかけとして情報環境があって,それでシェアが広がって,かつそういうことを提供している我々と接点が増えると,また何かハッピーなことが増えるんじゃないかなと思います.
アニリール:実は私,モンゴルに行ったことがあるので,ちょっとヒントを.モンゴルの他にもケニアにも行って,マサイ族にも会ったことがあります.初めて会うのでみんなが寄って来てくれたんですね.そこで私が「質問ありますか?」って聞いたときに,1人の女の子が「日本で牛,何頭持っていますか?」って聞くんですよ.「持ってないです」って言ったら「えーっ」て感じで皆が離れちゃって(笑).モンゴルは馬ですね.ゲルの中で食事をしていたときに,外から「オーオー」という声が聞こえるんですよ.何ごとかと思って見に行ったら,1人の男性が馬の上でいろんな芸をしてて.「何やってるんですか?」って聞いたら,そこの家のお父さんが「うちの娘をマークしてるんですよ」と(笑).そうしないとモンゴルの人達の組織に入れないんですよね.モンゴルやケニアに限られませんが,プロジェクトマネジメントとして行ったら,やっぱり,仕事したい国の組織や考え方——何を大切にするか——ということはすごく大切なんですよ.それは日本でもそうじゃないですか.たとえば東京で仕事するときと大阪で打ち合わせするときは全然違いますね.東京はものすごく真面目で,大阪はフランク(笑).
前田:僕,大阪人なんですけど(笑).
アニリール:大阪大好きです(笑).すごくオープン.あと,本気で言っているのか冗談で言っているのかよくわかんないですね.外国人としてすごく住みやすいです,関西は(笑).
初めて日本に来たとき,研究室から友達の携帯に電話をかけようとしてどうしてもつながらなかった.後で理由を彼に聞いたら「それは難しいですね」と.英語で難しいって言ったらdifficultですよね.だから単純に(電波の関係で)つながりにくいのかと思ったんです.でも数日後,研究室のシステム上,携帯に電話をかけることができないということがわかって…言葉の食い違いですよね.「難しい=やりにくい」という意味とは限らない,日本語だと.日本で外国人は日本語の使い方を学ぶわけですが,それは日本の組織でもあり.たとえばすごく偉い人と一緒にいて,「今日暑いですね」と言われたら窓開けるとか(笑).私からしてみたら何で?という感じですが.そういうところがプロジェクトマネジメント,これからのインターネットの世界でも,すごく大切ですよね.モンゴルの場合,馬がないと何もできません.本当です(笑).
前田:すごくわかります(笑).この前中国に行って痛感しましたね.日本人がアメリカナイズされたせいかもしれませんが,英語に対してのある程度のリテラシがあったら,どこでも通じると思っちゃうんですよね,僕だけかもしれないですが.でも中国で英語なんか通じないわけですよ.それよりも日本語の漢字や,もしくはその文化的な側面——中国人はこういう感情でこうやってものを返す——というそのプロトコルを知っているほうが最終的に仲良くなったりするということを体で感じました.そういう気持ちでモンゴルに行こうと思います…馬はちょっと(笑).
編集部:では最後に前田さんからまとめをお願いします.
前田:当初の目的が果たされまして,僕も明日からの仕事にすぐ活かされると思います(笑).まとめるのが非常に難しいのですが,書籍を読んで,また直接お話をさせていただく中で、その前向きな言葉の裏側に,多分いろんなせめぎあいもあると思うんですね.技術的にも政治的にも先端にいるご苦労があると思います.それを乗り越えるには別にマニュアルがあるわけではなく,やはり形にすること,実際の体験が重要.さっきのバジェットの話だって僕にとってはとても重たい話です.ただ単に「宇宙に行きたいな」と思っているだけでは実際に行けないのと同じで.自分の目的のためにバジェットを獲得する,適切に配分する,スタッフが互いを大切にしてプロジェクトをマネジメントし,勝つというイメージを強くもって実行し,それを世の中に広めていく.これは宇宙開発ビジネスだけではなく,どの仕事にも共通する話です,インターネットや無線技術が宇宙開発事業からスピンアウトされた技術であるように,今後インターネットで培われた新たな技術が別の分野にもスピンアウトされるのだろうという確信を、今日ここで得ることができたと思っています.
本日はどうもありがとうございました.
アニリール:あと最後に私からも一言.インターネットはこのまま進化し続けて良いですか? 人を幸せにしますか? よく考えてみてほしいと思います.
編集部:どうもありがとうございました.
対談を終えて〜前田氏からのひとこと〜
かつてインターネットが情報世界の宇宙として無限の広がりを感じさせてくれた時期がありました.それは,人智を超えた新しい価値や対話の可能性を無限に感じさせてくれたからです.
しかしながら,今の自分にとってネットは多くの情報からどれを選択するかという検索に過ぎなくなり,あてどのない探索の場ではなくなってしまいました.
アニリール氏との対談は、こうした私の中での倦怠を一蹴する出来事でした.技術者として宇宙や地球単位で仕事をする彼と話し,「出会い(Serendipity)は人間を知り,宇宙の法則を知るという内面の技術」だという認識がより深まりました.Webを内宇宙につなげる仕事はまだ始まったばかりなのです.
[ 会場のご紹介 ]
今回の対談は,東京ミッドタウン ミッドタウン・タワー5F デザインハブ内インターナショナル・デザイン・リエゾンセンターで行われました.
同センターは,国際的なデザインの人材育成拠点として,デザインを中心としたさまざまなセミナーやイベントの実施や運営サポートをしています.既存のデザインの概念に捉われず幅広い意味でデザインを捉えるのが特徴であり,デザインだけでなくさまざまな分野の人材を集めて人材育成を行っています.
詳細はWebサイトをご覧ください.
ANILIR Serkan
あにりーる せるかん
1973年ドイツ生まれ.国籍はトルコ共和国.大学卒業までをドイツ,スイスで過ごし,'95年イリノイ工科大学建築学科卒業,'97年プリンストン大学数学部講師に就任.'99年バウハウス大学建築学科修士課程終了.2003年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程を修了,日本宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究本部宇宙構造物工学研究室講師を経て,現在,東京大学大学院工学系研究科建築学専攻助教,エール大学客員教授などを務める.2001年NASAジョンソンスペースセンター宇宙構造・材料系客員研究員として宇宙飛行士プログラムを終了,2004年トルコ人初宇宙飛行士候補に選ばれる.宇宙エレベーター計画など,宇宙構造物に関する研究開発により,U.S Technology Award,ケンブリッジ大学物理賞及びAmerican Medal of Honorを受賞.現在は先端技術を応用し,インフラに依存しないで暮せる空間技術(INFRA-FREE LIFE)を開発,研究している.
[転載出所情報]
発行所 株式会社技術評論社
雑誌名・巻号・ページ 『Web Site Expert ♯13』 16〜23P
発行年 2007年