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2007/07/17

山崎ナオコーラ『人のセックスを笑うな』

  《ベッドの上に二人で座って、彼女の肩をちょんと押すと、
   ヤラレタとでも言うように、ユリはふざけて倒れこんだ。》

 文藝賞を受賞した際にはけっこう話題になったが、読んでみると確かに面白い。高橋源一郎が解説で、このタイトルと著者名を見たときに「これで受賞作は決まり」と思ったという話を書いているが、確かにとにかくタイトルがいい。というより、ややいじわるな言い方をすれば、このタイトルがなくてこの作品をそれほど面白く読めただろうか、という疑問すら湧く。このタイトル、実は本編の大きなテーマになっているというような類のものでもないように思う。にも関わらず、このタイトルが発する磁場が見事に物語の中の文章ひとつひとつを浮き上がらせているのだ。物語の中のすべての文章が、このタイトルとの関係の中で輝きを持つ。こういう小説も意外に珍しいと思う。タイトルが、小説中のすべての言葉を支えているのだ。
 話としては、19歳の男性と39歳の女性の恋愛物語ということになるのだろうが、恋愛というかなんというか、世にある「恋愛物語」の鯱張ったイメージからはいささか遠く離れた、どこか人と人が背伸びしない目線で見つめあっているというような印象がある。39歳の女性美術教師のアトリエ(というか要するに安アパート)に通う男子生徒という設定自体は確かに面白いし、細かい描写もそのキャラクターをうまく掴んでいてなるほどと思わせる(「夜、ベッドに入ると、彼女は手をキツネの形にしてオレをつついてきた。オレはその手を捕まえた。」)。だが、逆に言ってしまうなら、物語自体にそれほどドラマチックな展開があるわけでもない。恋愛物語にありがちな出会いと別れ、そしてすれ違い。いささか平凡ですらある。いや、勿論、ラストのシーンなど、悪くはない。「ガラガラと台所の窓を開けると、堂本とえんちゃんが手を振って来た」といった辺り、個人的には好きなのだが、ありがちな展開と言えばそう言えなくもない。
 しかし、そのような物語展開のややパターン的な平凡さ、あるいはドラマ性の乏しさをある意味で補っていのが、登場人物のキャラクターの持つ匂いであり、そしてタイトルがすべての言葉に向けて放つ強力な磁場である。つまり、タイトルが物語と着かず離れずの関係になっていて、必然的にいつもこの物語の言葉を引っ張っているのだ。ここまで物語の中のすべての言葉と幸福な関係を結べるタイトルも珍しい。やはり、傑作のタイトルだと思う。

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  • 2007/03/12登録

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