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2007/09/30

移民してきた「いい土」と枇杷の木

庭に、枇杷の木があった。
枝振りの良い枇杷の木には、毎年、たわわに薄いオレンジ色の実がなり、幼い私は、二階の窓から屋根へ出て、枇杷の実を収穫した。

終戦後、雪国生まれの祖父母は、「10坪買うのも20坪買うのも同じ値段」だった武蔵野の片田舎に土地を買い、生まれ故郷の木材と土を運んできて家を建てた。雪国の「いい土」を埋めた庭には、木蓮、あじさい、椿、山吹、紅葉、千両、万両が植えられ、すくすくと育っていった。
祖父母の代から、我が家と「いい土」は東京に移民したのである。

あるとき、東京の家へ遊びにきた曾祖父が、おやつに食べた枇杷の種を、ぷっと庭に吐いた。
そのときは行儀が悪いとかなんとかで、誰も、枇杷の世話はしなかったそうだが、何年か後、見事に、庭には枇杷が芽を出していた。そのぐらい、雪国の土は「いい土」だったのだ。毎年、屋根から収穫した枇杷を食べるたび、祖母は孫の私に枇杷の生まれを話してきかせた。

家を建て替えるとき、枇杷の木は切られてしまった。今度の建て替えのときも、建築会社に「いい土」を保存して、庭に埋め直してくれ、そう頼んだ。植え替えた他の木々はすくすく育ち、「さすが『いい土』は違う。この前、庭にかぼちゃの種を吐いたら、ほらまた生えてきた」と祖母は得意気だった。
生まれ故郷の「いい土」は、建て替えで枇杷がいなくなった後も、かぼちゃや、むかごや、しそや、きんかんを勝手に育ててくれた。祖母は、掌より小さいひしゃげた形のかぼちゃを、嬉しそうに調理していた。

その祖母も、昨年の夏に亡くなった。
種のある果物や野菜を食べるとき、家族の誰かが必ず言う。
「庭に吐いておけば、またなにか生えてくるかもしれないよ。枇杷みたいに。だって、うちの庭は『いい土』だから」


Web PLANTED創刊特集にあわせて書いてみました。

コメント(1)

2007/10/01

PLANTED akio71さん。心に残る物語をありがとうございます。素晴らしい文章、思わずうなりました。情景がまざまざと浮かんできます。「いい土」は世代を超えて引き継がれていくものなのですね・・・。

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akio71画像 女子ゲームシナリオライター。


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