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2008/06/30

黒沢清『映画の怖い話』『恐怖の対談』

 映画監督・黒沢清氏の対談集。対談相手もバラエティに富んでいて面白い。現代日本における批評も含めた映画界の第一人者であると同時に、恐怖映画でも有名な監督でもあるので、怪奇・恐怖テーマの対談ということでそういう相手との対談もある。前者の流れで言えば、映画論の師匠でもある蓮実重彦氏を始め、テオ・アンゲロプロス自身との対談やゴダールをめぐってのサエキけんぞう氏との対談など。後者の流れなら、楳図かずお氏や伊藤潤二氏との対談など、これはこれでまた楽しめる。
 きちんとした映画史的教養を元に映画を撮るというのは、それだけでも実は今の時代にはけっこう稀有なのかも知れない。だが、その映画史的教養を元に恐怖映画をわりと主に(勿論、それだけではないのだけれど)撮っているというのも面白い人ではある。映画史的なきちんとした教養というのは、当然、蓮実重彦氏の講義に出ていたという影響が大きく、この場合の教養というのはいわゆる名作とされるようなものを知っているということだけでなく、蓮実氏的視点からの教養ということで、例えばリチャード・フライシャーなども重要な教養になっているという辺りがなんだか微笑ましい。ちなみに、立教大学で蓮実氏が持っていた講義からは著名な映画人が多く輩出しているのに、同様の講義をやっていた東大ではそのような話をあまり聞かない(ちなみに僕も元・受講生だが…)。吉田喜重氏みたいな大先輩もいるのだけれど、この落差は一体何なのか、と少し気になる。
 ところでこうやって読んでいると、映画が出来ていく過程というのがひとつの創造の過程として面白かった。創作ジャンルにもいろんなものがあるが、基本的に映画は一人で作るものではない。従って、創作の過程でさまざまな人の意見が入ってくる。それが、「監督」という人の名前に束ねられてしまうことの不思議さを黒沢氏は語っているが、それは確かにそうなのだろう。それでも、監督の作り出す雰囲気というものがあって、それが作品の出来に大きく影響をしているということだから、それもそれで不思議だ。また、映画は実際のロケ場所にも当然ながら大きく影響される。そのような場所が物語を膨らますということもあるようだ。そしてもうひとつの要素として偶然も大きい。撮影中に偶然に吹いた風、それも偶然ではありながら作品の大きな要素ではある。要するに、映画は多くの人や場所や自然に影響されながら、大きな波のうねりのようにゆっくりと形になっていくものなのだ。まさしく匿名的な創造の集合体のようにも思えるが、それでいてやはり監督という場に左右されるというのが面白い。あるいは、監督という存在はある種のファシリテーターとして機能しているのだろうか。

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