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2008/07/15

梅田望夫『ウェブ時代・5つの定理』

 考えてみればいささか精神論めいた本でもあって、つまりネット業界における働き方の指針みたいなものをまとめたものなのだけれど、不思議にあまり説教臭くならないし、むしろどちらかというとちょっと精神が高揚するような内容でもある。本当にイノベイティブなことをするためにはどうすればよいのか、そのことのエッセンスのようなものが確かにこの本には感じられるからだ。
 イノベイティブな時代に、どうやって真にイノベイティブでありうるか? イノベイティブな時代に生きていることが、個人や組織すべてにとってイノベイティブでありうることを保証するものではない。と言うより、少なくない人が、自分の過去の成功体験に時代を引き寄せようとする。しかし、この本にもあるように「今日の問題を昨日の解法で解いてはいけない」というのはやはり真理なのかも知れない。いや、この問題はけっこう難しい。昨日の解法でも解けないことはない。というより、闇雲に新しい解法を求めるより、昨日の解法のほうがある程度の結果を出してくれる場合が多い。しかし、そのような過去の解法からは、大きな飛躍は出てこないことも事実だ。着実なヒットは昨日の解法からのほうが出やすいが、大きな逆転ホームランはやはり昨日の解法からは出てこないような気がする。
 いずれにせよ、そのためにはそのような逆転ホームランを出すための素地というのが必要で、どうもシリコンバレーという場所は、そのような逆転ホームランを出すさまざまな環境があるのかも知れない。逆転ホームランを出すためには、三振もよしとする土壌も必要なのだが(要するに平たく言うと「失敗を許す」ということ)、それが経済的にも文化的にも精神的にもきちんと許容されているような気がする。むしろ、それがきちんと制度にすらなってしまっているのかも知れない。
 そしてそのような場所にこそ、熱気と才能が集まる。そして、その集まった熱気と才能が、次の熱気と才能を引き寄せる。シリコンバレーとは、「上」を伸ばす場所だ、とする作者の感想が面白かった。才能に恵まれた者、優秀な素質を持つ者、それをきちんと伸ばしていける土壌があるという意味だ。そんなネット業界で、現在もっとも成功モデルになっているのはアップルとグーグルだろう。アップルの復活物語もなかなか面白いし、また作者が本当に「変」な会社だというグーグルもやはり面白い。
 結局のところ、本当にイノベイティブなことをするのは、ルール云々以前に真にクレイジーで熱意のある卓越した才能がひとつでもあればいいのかも知れない。あとは、その存在が触媒のようになって、次の才能や熱意を呼び込む。才能と熱意があるところにイノベーションが起きないわけがない。この本を呼んでいると、イノベーションとはそのような才能と熱意の単なる結果でしかない、ということをつくづくと実感する。

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