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2008/07/16

梅田望夫『ウェブ時代をゆく』

 ウェブ進化論はわかった、ではどうやって働けばいいのか、ということに対するひとつの回答として著者が提示したのがこの本ということになる。この本はどう働くかという視点をベースにしながらも、かなり多角的な視点もさまざまに含んでいる。
 ネットということが登場して以来、情報のあり方、そこでの物事が作られていくあり方、さらにはそこでのビジネスのあり方、そんなものも変わってきている。当然、そこでの働き方も変わってきている。指摘されるまでもなく、「大企業に一生勤めれば安泰」といった人生設計はきわめて現実味の薄いものになってきている。そんな中で、著者は大企業には大企業向きのキャラクターの人がいて、そういう人には相変わらず大企業はメリットのある場所であるとする。従って、ここで二つの選択肢を提示する。「大組織のプロ」を目指すか、あるいは「吸収できることをすべて吸収して辞める」か、だと。ちなみに、この本の中では大企業向きのキャラクターとはどのような特質があるのかというのが箇条書きでまとめてあるので、それに当てはまらない人は後者の選択肢を選ぶべし、ということになる。ちなみに、この本の中ではダメな大組織の兆候のようなものも箇条書きでまとめていて、これがなかなか笑える。いや、大企業とはだいたいここで挙げられているダメな兆候を多かれ少なかれ持っているものなのではあるが。
 ところで、「向こう側」と「こちら側」という話は『ウェブ進化論』の時から同一のテーマで、その中で世の中にあるいろいろな事柄の比重が後者から前者に移っていくというのは、これはこの著者ならずともまあ社会全体のコンセンサスではあるのだろう。ただし問題は、それが単に比重が移るだけではなく、本当にそこに新しい世界ができるのか、ということ。要は新しい知のあり方であり、新しい経済のあり方であり、あるいは新しい「職種」でありつまりは新しい生き方であり、そういったものが本当に「向こう側」にできるのか、ということだ。
 例えば知のあり方で言うなら、著者が「高速道路と大渋滞」という言い方で示しているように、確かに知の方法論みたいなものが変わったということは確かにあるだろう。しかし、それが知の質までも変えたとまでは言えるのかどうか。例えば、将棋の世界で言えば、ネット世界からまったく画期的な将棋的知が出てきたとすれば、それは確かに革新的だろうが、そうとまで言えるのかどうか。また、知に隣接する「創造」という領域でも同様のことがあって、それが創造の方法論は変えたのかも知れないが、それが新しい創造の質にまで繋がっているのかどうか。
 あるいは経済。確かに、新しい経済の仕組みのようなものはできつつあるような気がしなくもない。しかし、それが新しい「職種」を多少は生み出すにしても、それほど広範に広がるものなのかどうかはよくわからない。ましてや、ネットが本当にそこまで多くの人の生き方までも変えうるのか、実のところ半信半疑ではある。いや、その可能性に賭けてみよう、とこの著者なら言うのかも知れない。そうしないと、そもそも何事も事態が動き出しはしないのだから、と。それは確かにそうかも知れない。ちなみに生き方という側面は、当然ながら経済という側面と強く結びついている。要するに、ネットの中だけでうまく稼げるようになれば、それは必然的に新しい職種や新しい生き方を保証するのだ。そして、それと知や創造の側面は、リンクしていてもよいし、リンクしてなくてもよい。日々の糧を得るのとは別に、知的・創造的活動を行うという生き方は、別にリアルの世界だけではなくて、ネットの世界内でもそのような分業があるという可能性は充分にありうるからだ。
 このような問いは、個人ということだけでなく、企業にも当てはまる。新しい知や創造、そして新しい儲け方、新しいビジネス、新しい経営は、企業にとって本当にありうるのか。グーグルなどの極めてユニークな経営手法(というか会社風土)を見ていると、そういうことも確かにあるのかも、とも思うが、一方でしかし「それは極めて特殊な例ではないのか?」という疑念も湧く。いずれにせよ、その対象が人であるにせよ企業であるにせよ、このことはこれから試行と検証が続いていくことになるだろう。
 ちなみに、面白い指摘がひとつだけあった。だいたい目標を立てるというと、普通の人は「○○をやる!」というほうにばかり眼が行きがちだが、むしろ大切なのは「△△を止める」(≒そのことによって○○をやる時間を作る、つまり時間の優先順位を変える)ことだということ。なるほど。

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