2009/06/22
金子兜太『金子兜太集・第4巻』
この巻に収録されているものでは、『わが戦後俳句史』は岩波新書版で読んでいたが、その他のものは初めて読んだ。
時代のせいもあるのだと思うのだが、昭和二十年代・三十年代に書かれた文章は、妙に難渋な書き方になっていて、どうにも読みにくい。時代がその難渋さを当然としたという部分もあるのだろうが、最近の文章に見られる、あの名調子の語り口調をそのまま文字に写したような平易さと比べると、ややそのギャップに戸惑う。
その難渋さにも繋がるのだが、さっと一読して思ったのが、どうしてそんなに「主観」「主体」というものにこだわるのだろう、という単純な疑問だった。そこには、俳句を「思想詩」たらせなくては、つまり「文学」たらせなくては、という確かにどこか性急な焦りのようなものがある。そして、そのための条件が「主観」や「主体」を俳句に反映させなくては、という思いだったように思うのだが、それが本当に絶対条件なのだろうか。勿論、そういう俳句があってもまったくよいのだが、それが俳句が「文学」たりうる条件ではないのではあるまいか。勿論、当時の第二芸術論の影響もあるだろうし、ひいてはその背後にある哲学観・文学観あるいは社会観といったものが当然のようにそれを要請したのだろう。
「思想詩」ということもよく言われる。しかし、俳句が思想たろうとしたとして、いわゆる「哲学思想」「社会思想」などを俳句の中で表現しなくてはならないのか、というとはなはだ疑問だ。異質な器に異質な物を盛り込んでいるような気がする。そんなことより、俳句には俳句の思想がある。俳句という文芸をどのように考えるかということ自体、俳句という作品をどのように捌くかという手つき自体、そこにきちんとした思想があるはずだ。「思想詩」というのであれば、まさにそれでよいと思うし、その意味で言えば俳句は優れた思想詩であり(少なくともその可能性を持っており)、無理にそこに外来の「思想」などを当てはめる必要はない。同時に、無理にそこに「主観」やら「主体」やらを顕にしようとする必要もない。素材は客観的なものだとしても、それを捌く手つきに必然的に主観というか主体というか、要するに個性は出る。俳句という器について言うなら、それで充分のような気がする。
いや、別に兜太氏が間違っていたというのとも違う気がする。文章をずっと読んでいると、実はこの人は最初からそんなことを分かっていたのではないか、とそんなことを思えてならないのだ。この人はきっと、最初から虚子のいる場所が俳句の場所だということがちゃんとわかっていたような気がする。虚子のいる場所というのは、いわゆる「前衛」と「伝統」と分けた時の「伝統」という意味ではない。虚子は「俳句史上最大の狂人」だというのが僕の以前からの持論で、要するに虚子の俳句に一番「狂気性」がある(勿論、これは最大級の賛辞である)。そして、それこそが俳句の場所なのだ、と僕も最近思うのだが、兜太氏も最初からそんなことには気がついていたのかも知れない。ただし、時代の要請もあったろうし、本人の性格もあったのかも知れない。「行きかがり上」という印象がどこかにするのだが、兜太氏はいろいろと迂回をする。とりあえず考えられる小道を全部虱潰しに行ってやろう、と。その道が行き止まりだろうと、あるいは単なる寄り道に過ぎなかろうと(最初からそんなこともうすうす予感しつつも)、とにかく一通りその道を通ってみずにはいられない。そうしていろんな道を虱潰しに歩いてきて、戻ってきたところがやはりあの虚子の「狂気性」の場所だった。なんだ、やっぱりここが俳句の場所じゃないか、と、にやにやしている(いや、だから最初からそんなことはわかっていたのだ)、そんな兜太氏の顔が思い浮かぶようだ。
なんだ、結局その場所に戻ってくるんだったら、それまでの過程は結局徒労だったのではないか、と思われるかも知れない。いや、そんなことはない。確かにもとの場所に戻ってきたのだが、そこは何かやはり前の場所より少しばかり広くなって、少しばかり見晴らしがよくなっている。そして何より、その場所にいるという揺るぎない自信がその場所の輪郭をはっきりとしたものにしている。それは実は俳句史的には大きな一歩だ。そして、おそらくはそのことも最初から兜太氏は分かっていたのかも知れない。やっぱりここなんだ、とその場所に戻ってくるために、彼はさまざまな遍歴を繰り広げたのだとしたら。
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- ダ・ヴィンチ | Tracked: 09.6.24 2:23 pm
ダ・ヴィンチは、ルネサンス期を代表する芸術家で、万能の天才として知られています。ダ・ヴィンチの人間性や天災としての素晴らしさを紹介しています。
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