2009/06/24
6:50 am
カリフォルニアへのドライブは格別だった。オレとミンガスはずっと議論しあってばかりで、マックスが仲裁役だった。白人に関する議論が始まると、ミンガスはただもう大変な興奮ぶりだった。あの頃のミンガスの白人嫌いはものすごくて、シロはなんでも、特に白人男はダメだった。そのくせ、セックスの話になると、白人女か東洋人の女が良いという。だかそれは、アメリカの白人男、いわゆるワスプに対する、奴の激しい憎悪とは無関係の話だった。そのうち、動物の話になった。ミンガスが、白人は獣にすぎないというようなことを、さんざん話した後、言いだした。
「もし新車を運転していて、動物が道路に飛びだしてきたら、どうする?ぶつからないようにハンドルを切って、車をつぶすかい?それとも止まろうとするか、構わずにはねるかい?」 「まあ、たいていはなねるだろうな。他にどうしろっていうんだい。急停車して後ろの車に突っ込まれるか、新車をぶっつぶせとでも言うのかい?」マックスが答えた。
すると、ミンガスは、こうきた。
「それみろ、白人と同じ考え方だ。そいつは、まさしく白人のセリフだ。連中は、哀れな動物をはねて、死のうがどうなろうが、構っちゃいない。オレ?オレだったら、手も足も出せない小さな動物を殺すくらいだったら、車をつぶすにきまってるさ」
とまあ、こんなやりとりが、カリフォルニアに着くまで、ずっと続いたんだ。
オクラホマだったと思うが中西部のどこかで、食料を手に入れるために、車を停めたことがあった。おやじのコックが作ってくれたチキンを食べ尽くしてしまったからだ。ミンガスは肌の色がとても薄くて、外国人に見られるだろうからと、俺たちは彼に、食料を手に入れてこいと言った。レストランの中じゃ食べられないことはわかっていたから、サンドイッチか何かを持ち出してこいと言ったんだ。ミンガスは車から降りて、レストランへ入っていった。その時一瞬、オレの頭に不安がよぎった。で、マックスに「奴の変人ぶりを考えると、一人で行かせるべきじゃなかったかもしれないな」と言ったんだが、後の祭りだった。案の定、突然怒り狂ったミンガスが、レストランから飛びだしてきた。
「あの白人野郎どもは、あそこで食べさせないなんて言ってやがる。さあ、レストランごとぶっ飛ばしてやるぞ!」
で、オレは言った。
「おい、座れミンガス。黙って座って、一度でいいから口を閉じてくれ。一言でも喋ったら、瓶で頭を叩き割るからな。さもないと、お前の大口のおかげで、全員ブタ箱行きだぞ」
当時あの辺りは、黒人を見ると同時に撃つような所だったから、ミンガスも少しの間は静かになった。奴らは自分で法律も決めていたから、黒人を殺したって罰せられるようなこともなかったんだ。ミンガスの故郷カリフォルニアまで、オレ達はずっとこんな調子だった。
オレは、自分で思っていたほどには、ミンガスのことを知らなかった。マックスとは何度もツアーに出ていたから、お互いがよくわかっていた。だがミンガスとは、一度もツアーの経験がなかったし、昔バートのことでケンカしたことはあったが、ステージを降りた奴のことはほとんど知らなかった。オレは静かだし、マックスもそうだった。で、ミンガスはと言うと、まったくあの野郎ときたら、本当に喋りっぱなしなんだ。それも、ものすごく難しい話を延々としやがるんだが、時にはなんとも軽く聞こえることもある。しばらくして、オレは我慢できなくなって、瓶でぶん殴るぞなんて脅したこともあった。で、奴はでかかったから、オレを恐れたとも思えないが、とにかくちょっとの間は静かになる。だが、すぐに、また元の調子で喋りはじめるんだ。そんなわけで、カリフォルニアに着いたときは、三人ともくたくたになっていた。で、ミンガスを降ろすと、オレとマックスはすぐにホテルに向かった。
そして数日後、マックスがミンガスに車を貸してやると、ミンガスはそいつをぶつけて、車輪を外してしまったことがあった。なんでだと思う?猫を避けようとして、消火栓に突っ込んだんだ。まったくミンガスの野郎ときたら、ドライブの時に話していたとおりのことをやりやがったんだから。オレは笑い死にしそうだった。だが、マックスは本気で怒り狂って、二人で大ケンカしていたな。
マイルスデイビス自叙伝
ロドリゲス通信
批評をテーマにした電子出版をやっています。 批評の投稿も随時募集中です。 デジタル時代の雑誌 配信...
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- 2012/01/19更新
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