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2009/12/24

塩野谷仁『全景』

 鳥帰る舌も筋肉なれば熱し
 短日とはついに水辺を離れぬ犬
 葱坊主ときにヤマトタケル疾る
 石榴割れあとからあとから馬の音
 おもいおもいに石温める西行忌
 いちまいの白紙怖れる夏の家
 人体に抜け道いくつ冬の月
 階段の奥は深くて三島の忌
 暗がりに階段多き二月かな
 ことごとく橋崩れゆく春の夢
 眠れぬからこの世に落とす紙風船
 白鳥来真夜中はスプーンに限る
 四月とは馬の二頭の近さなる
 また一人鉄棒まわる石蕗の花

 この作者の俳句は、時に怖ろしいなあと思うことがある。ふと阿部青鞋の句なども思い出したりもするのだが、たたずまいは普通に見えるだけ、阿部の句よりも企みが深い。一般的に言って俳句には、あまりどきりとするような作品はない。阿部はそういう意味で、どきりとする俳句を作り出した稀有の人だと思うのだが、この作者はその阿部の企みをきちんと有季定型の中に、密かに消化している。何か、彼岸と此岸のあわいのような場所を見てきたのではないかと思うくらい、その句は現世にありながらしかも現世離れしているところがある。そのことを平易な言葉で、有季定型の中で、やってしまっているのだから、これはやはりすごい。単純素朴に見えながら、いつもどこか彼岸の怖ろしいものに触れているような句群。作者が一朝一夕でこのような場所に辿り着いたのだとは思えないし、いろいろな遍歴の後でここに辿り着いたのではあるだろうが、これはやはり現代俳句の中ではかなり特殊な位置を獲得している句群と言っていいだろう。

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