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2009/12/28

マーク・ストランド著/村上春樹訳『犬の人生』

  《私はナイトガウンを来た母が庭を抜けて
   湖の方に歩いていくのを見ていた。》

 なんだか奇妙な短編集なのだ。変にざらりとしたものを残していく短編が多い。いや勿論、優れた小説は一様に何かざらりとしたものを最後に残していく。だがそれにしても、この短編集は奇妙だ。何か、ざらりとしたものを残すことだけが主眼になってでもいるかのような短編群。
 訳者が適切な解説をしている。「具体的な意味」や「作者のメッセージ」よりも、「どのくらい説得力のあるイメージを僕らの中に喚起するか」、つまり「僕らがその<お話>によって実際にどのくらいの心的な移動を受けるのかという、一種フィジカルなダイナミズムが、この人の<短編小説>の要点なのではないか」と言うのだ。この指摘は実に正しいと思うし、そして続けて訳者が言うようにその作用は「詩の作用によく似ている」。
 そう、この短編集は勿論小説のカテゴリーに入るが、作者はむしろ詩人と呼称される人であり、したがってこの本は詩人の書いた小説、に分類されるべきものなのだ。「詩というものは、とても素早く移動するんだ」とこの詩人は語るのだが、そのような奇妙な詩的ダイナミズムが確かにこの短編集すべてに充ちている。
 詩と小説は似ている。しかし、やはり違う。少なくとも、その立脚点のようなものは違うのかも知れない。少なくとも小説は「とても素早く移動する」ような代物ではない。じっくりと時間を掛けてざらりとしたものを読者の中に残している。それに対して、この詩人が書いた小説集は、ざらりとしたものの周りを言葉が取り囲むようにして塊となり、その中ですっとイメージが素早く移動していく。それは訳者が言うように、確かに詩であるべきはずの作用を小説の中で行っている。それを、達成と言ってよいかどうかもよくわからないが、どうにも奇妙な短編集であることは確かだ(南米の小説家たちに、この手の作品がないわけではないが)。駆け抜けていくイメージが、地に足の着いた散文によって綴られている、この不思議。

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