こころのしくみ~にんげんかんけいにどうかかわるか(じょうちゅうげ)
心の仕組み~人間関係にどう関わるか(上中下〕
著者ピンカーはMITの教授で,ジョン・ホーガンの「続・科学の終焉」にも出て来る「進化心理学」の論客の一人である。同書の1997年に出版されたこの本の原著「How The Mind Works」について言及した部分で,ホーガンはこのヒトを「あと先を考えずに自分が思いついたことを喋りまくる」と評している。アメリカの学者には(いや,学者に限らないが)その言説の正当性とマスコミ受けの度合いに相関があると思ってんのかこいつ,というようなヒトが少なくないが,ピンカーにもそういうところがあるんだろう。
この大冊の主題は「我々の『心』をリバース・エンジニアリングする」ことだ。ピンカーら進化心理学の考え方では,我々人間の「心」(およびそれを宿す脳)も,ゾウの鼻やキリンの首,ペリカンの下顎やアイアイの中指と同様な,進化の過程における「適応」の産物であるとする。ピンカーはまず脳が網膜に写った二次元映像を如何に三次元に再構成して認知するかを語り,この臓器(意外かも知れないが脳も「臓器」である)が問題を意味論的に分散処理していることを明らかにする。 脳の情報処理が分散型であるとすれば,そうした方がより適応的な環境が存在したはずであり,その視点から脳のあれこれを分析して行けば,衝動や夢や強迫観念といった心の働きについても必ず納得の行く説明がつくはずだ,として認知,情動,家族の価値へとその推論を拡げて行く。
確かにホーガンが指摘する通り,人間心理の最も不可解な部分,哲学や宗教,芸術を好む心理に対する解釈については牽強付会的なところも見える(一応ピンカーだってそこは「仮説だ」と書いてるんだけど)。が,男の子は全て母親と寝たがっている,と言ったフロイドの説よりも首肯できるエディプス・コンプレックスの説明がここにはあるし,バルカン人スポックを引き合いに出して分析する「情動の目的」に関する議論はこれだけで一読の価値があるとオレは思う。
あ,それから上巻の前半にある,「心をリバース・エンジニアリング可能な思考機械として分析する」という部分は,進化心理学に対する興味云々を別にしても,論理と演算に関わる面白い話満載である。全てのプログラマに読むことをお勧めしたい。
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