アタラシイ カナニュウリョク ノ セカイ。
新しい「かな入力」の世界。
パソコンを使った日本語入力の分野では既に100種類以上の入力方法が提案されているのですが、21世紀になってから特に開発件数が増えてきたのが、意外(?)なことに「ひらがなを基礎とした入力法=かな入力に分類される入力方式」だったりします。
インターネットの普及により、基礎となる「かな連接頻度情報」の基となる膨大な文字データを取得しやすくなったことや、あるいは「かな連接頻度情報」を求めるために必要な「漢字かな交ぜ文→ひらがな変換ツール」や「ひらがなの連接頻度計測ツール」が実用的な速度で使えるようになったことも、あるいは影響しているのかもしれません。
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そういえば、なぜにパソコンに限って「かな入力」は廃れたのでしょうか。
携帯電話(*)・辞書機能つき電卓・テープライター・カーナビ・銀行のATMなどをはじめとして、ふつうの情報端末では当然のように「かな入力」の仲間が色々な形で使われ続けています(#)。
ひらがなを「あいうえおかきくけこ……」の順に並べた「ひらがな50音順表」は広く知られていて、その規則は「ローマ字表」を示すためにも使われているほど基礎的な知識として定着しています。
日本語話者であり日本語記述者である限り、「ひらがな」と「50音順表」はとてもなじみが深いものです。
(*:標準は「かなめくり入力」で、2番目に「ポケベル入力(これはローマ字入力的でもあり、かな入力的でもある)」、3番目に「子音入力(NECのT9や、Sharpのワンタッチ変換など)」。いずれもかなベース。)
(#:ローマ字入力は、かな入力の多様な実装形態とは異なり「パソコンで使われているものと同じQwerty配列+JISX4063綴りのローマ字入力」の唯一つしかありません……パソコンユーザの利用が当て込める限られた分野でのみ利用されているのが実情です)
ところで、ワープロ時代の後に来た「MS-DOS搭載パソコン(*)」では、「英字入力を使いこなさなければシステムを維持管理できなかった」という事は、1980年代かそれより前に生まれた方にとっては記憶に新しいことだと思われます。
それと前後して、オフィスには「JISかな入力」と「親指シフトかな入力」のワープロが混在する時代がありました(#)。事務の分野では「あるものを使う/よく検討して機種を選定する」方針が主であっただろう状態に対し、教育の分野では「どちらが採用されている端末でも使える入力法(=Qwertyローマ字入力)を使う」方針を採る(@)場合が多かったようです。
(*:Windows搭載パソコンや、MacOS搭載パソコンはこの範疇にあらず。)
(#:複数の入力方式をサポートするワープロは確かに存在していましたが、基本的に当時は「○○を買わなければ□□という入力法を使うことができない」とかいう、とてもばかげたことがまかり通っていました。今ではソフトウェアの力によって、こういう制限はなくなりましたが、いわば「時すでに遅し」だったのかもしれません。)
(@:もちろん、どちらの方針も「それぞれの立場では最善の選択」であることに疑いはありません)
極めつけの理由としては、当時ろくなタッチタイプ習得用教材がないままに「独学で覚えそこなった」経験がある方が多いかも知れない、ということでしょうか。
その影響からか、
・ひらがな入力って、ワープロ時代にいくつかあったよね。
・ひらがな入力って、古くない?
・ひらがな入力って、覚えづらくない?
・ひらがな入力って、タッチタイプしづらくない?
……と、こういう印象しかお持ちではない方も結構いらっしゃるのではないかと思います。
こういった時代背景を通過して来た結果として、いつの間にか「パソコンでの日本語入力だけ、なぜかローマ字入力が標準的に使われる」状態になった……のかもしれません。
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1980年代前後に展開された、新しい「かな入力」の世界。
かな入力の新規製作については、1980年の前後にいくつかの特徴的な成果を伴って発表されました。
一つ目は【NICOLA(ニコラ)】……昔は「親指シフト」と呼ばれていました。
ワープロ専用機の時代に20%近傍のシェアがあり、主に「速記入力ほどの速度は必要としない事務&創作ユーザ向け・仕掛けが単純で習得がある程度容易・タッチタイプしやすさに重きを置いてシステム全体が設計されている」などの特徴があります。
富士通株式会社が今でもキーボード・ソフトウェア・ノートパソコンを販売していることや、入力法自体が日本語入力コンソーシアムで公開されているため主要なプラットフォーム(Windows/Macintosh/Linux)で使える仕掛けが整備されていることなども、特徴としてあげることが出来ると思います。
NICOLAが採用した「ワンアクション=一文字」「濁音や半濁音も清音と同じ打鍵コスト」という操作単位は、後に登場する入力法に対してそれなりに影響を与えるようになりました。
二つ目は【新JISかな(JIS X 6004)】。
1980年代のかな入力法で唯一、「人力で打鍵評価を行い、候補を絞り込んだ」という、ちょっと変わった成立過程を持っています(*)。
かつて新JISかな入力法を規定する際に、ワープロメーカーがハードウェア的な変更を嫌って(?)採用した方式ですが、当時のワープロ製造メーカーが消極的な採用しかしなかったらしく、残念ながら今は廃止JIS扱いとなっています。
さまざまな実験結果を通して製作された入力法で、「Shiftキーを文字キーと同じように単独で押す」「入力速度の向上&入力ミスの減少を目指し、数字段を使用しないキー3段のみを使用」「入力速度の検証用に用意した3段かなキーボードには、NICOLAを基礎とした文字順序を採用していた(=NICOLAでの指使いの影響が出ている)」「計算によって候補をふるいに掛けて、人力での評価でさらに候補をふるいに掛けて、最終的にはこれらを総合して入力法を決定した」などという特徴があります。
他の入力法とは異なり、入力法の設計段階に関する資料を情報処理学会電子図書館や国立国会図書館で入手することができ、誰でも当時の製作過程をたどることが出来るという点が興味深いと思います。
この入力法は設計思想が単純明快であるためか、後に「面白い特徴を追加して」新たな名前を冠することになるのですが……それは後述します。
(*:同世代のかな入力法は、一般的に「計算や理屈で出した配列を一つつくって、それでおしまい」という決定法を取っていたようですが、新JISかなではそれに依存しすぎることを嫌ったような節があります。21世紀製の入力法においても、人力評価はもちろん重要なファクターであり続けています……配列は、人間と鍵盤を結ぶインターフェースなのですから、人間が評価しなければならないのは当然のことです。)
三つ目は【TRON配列】。
NICOLAと似た「親指位置にあるキーをシフトキーとして用いる」設計ですが、NICOLAとは異なり「同時シフトはせず、連続的にシフトする」「普通のキーボードからはかけ離れた、専用設計のキーボードを使用する」「なるべくシフトキーを使わずに文字を入力する(=新JISかなと似た設計)」であるなどという特徴があります。
現状では、シフト操作が少ないことを利用して「NICOLAエミュレートソフト」を使った実装をする例が多いように見受けられます。
四つ目は【花配列】。
中指シフト方式仮名文字配列 「花」は、NICOLA・新JIS・TRONに共通する「シフトキーは文字盤面の外側にあるべきもの」という前提をひっくり返すかのように、「シフトキーは、ホームポジションの真ん中にあるべきもの」というコンセプトを採用し、その条件で「ひらがなの使用頻度を考慮」「打鍵時間の積算値を短く」「自由打鍵をした場合に各指を使った頻度を考慮」した入力法を「コンピュータによる計算のみで求める」という試みを行ったものです。
「コンピュータによる計算のみで求める」ことに無理がある……という部分については、おそらくそれを新JISかな(JIS X 6004)が証明していた(*)ように思います。とはいえ、「計算による評価には限界がある」ことさえ忘れずに利用すれば、非常に正確で漏れのない評価が可能であることもまた実証されたはずです。
一方で、「シフトキーとして文字キーを用いる」という方法は、考え方を変えれば「ローマ字入力の変形」として文字入力法を定義できることでもあり、このコンセプトは後に意外な展開を見せることになります。
(*:1999年までに設計された入力法において、「人力による徹底的な打鍵評価」を重視したのは、おそらくは新JISかな(JIS X 6004)のみであったと思われます。2000年に「飛鳥カナ配列」が人力評価打鍵を重視した開発手法を採用して登場したあたりから、この流れは徐々に変わっていきます……)
これらの入力法は、後の新しい入力方に対して数多くの影響を与えることになります。
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1990年代に展開された、新しい「かな入力」の世界。
1990年代は、主にローマ字入力の改定案が多数提案された時期です。
この時代に製作された、本格的な「かな」入力法は、ほとんど見かけません。
(2007年8月26日23:15:30追記:以前「花配列」を1990年代の配列として紹介していましたが、実際には1989年9月13日に公開されています。そのため、事実に沿うように修正しました。)
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21世紀に展開された、新しい「かな入力」の世界。
一番始めにも書きましたが、新しい「かな入力」を設計する例が増え始めたのは、21世紀を迎えて以降のことです。
その背景としては、
・ネットワーク間ネットワーク(インターネット)の発達に伴い、「かな連接頻度情報」を求めるために必要な「日常性がある(=現代人がイマドキを記録した)膨大な日本語漢字かな交ぜ文」「膨大な日本語漢字かな交ぜ文を、かな下し&集計するためのツール」が入手可能になった。
・コンピュータの処理能力向上により、(以前は上記のようなデータやツールがあっても処理できなかった)複雑な集計を、個人が持つパーソナルコンピュータでも実用的な処理時間で行えるようになった。
・製作した入力法を、コンピュータ上で「実際に試して改変する」ために必要となる「キー入力入れ替えツール」が揃ってきた。
などがあり、従来では現実的ではなかった「個人製作によるかな入力」が現実味を帯びてきた(*)ことが影響しているのかもしれません。
(*:ローマ字入力では「行」と「段」を示すキーの位置しか調整できないので、ここまで膨大なデータがあってもあまり意味がありませんでした。かな入力では「行」と「段」にとらわれず「かな」単位で文字位置を決める事が出来るため、より詳細な情報があれば、より効率的な設計を行うことが出来ます。)
使ったことがあまりない入力方法に対して言及をするのは難しいので、とりあえず2点のみ挙げてみることにします。
一つ目は【月配列】。
新JISかなが持つ「中段と上段を良く使う&シフトキーは文字キーと同じく単独で打つ」という特性と、「花」が持つ「シフトキーをホームポジション中央に配置する」という特性を組み合わせることから出発した入力法です。
パソコン一般板・新JISスレッド@2ch生まれということもあり、ある意味「忌憚なき意見に曝されて成長し続けている」入力法といえそうです。単純に「多くの人による試験を経た」入力法は他にも多数存在するのですが、「多くの人による打鍵評価を経て、かつ打鍵評価に基づいた新たな提案がなされ続けている」という複合条件を満たす入力法はあまり多くなく、月配列はその数少ない事例の一つとなっています。
特定の入力法を指しているわけではなく、月配列といわれる入力法には多数の発表例が存在しています。
2chの該当スレッド中では、月配列というための条件から少し外れていそうな提案がなされることもある(*)のですが、そういう入力法をも含めて分け隔てなく「中指シフトという枠を使って、とことん快適に入力できる方法を探そう!」という雰囲気に満ち溢れた、とても興味深く面白い場所だと思います。
(*:手作業による打鍵評価のみではなく、手作業で集めた打鍵データを基にGeneAnalysisを利用した配列も公開されている。)
二つ目は【飛鳥カナ配列】。
キーワード経由で打鍵動画を掲示しているとおり、私が今使っている入力方法です……そのため、キーワード「飛鳥カナ配列(親指シフト系)」をご覧頂くのが手っ取り早いかもしれません。
いわゆる「飛鳥理論」が難解すぎてアレなものの、「入力法を設計するためには何について特に考慮する必要があるのか」というバランスのとり方(*)を、かな入力上で示した始めての例なのかもしれません。
(*:「です/ます/ー」などの優遇、「なるべく同じシフト【状態】を続ける」という設計、左右交互打鍵とアルペジオ打鍵の混合活用、片手に偏らせた使用頻度、シフトキーは文字キーと交ぜずに親指位置へと置くべき……など。)
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「かな入力」は、このまま「廃れたまま」になるのでしょうか。
おそらく、答えはNoであろうと思います。
「効率よく快適に日本語を入力する」「習得量が少なく簡便な練習で使い始めることが出来る」の2点のバランスを取る場合、最終的には「かな入力」がちょうどいいバランスになる様に思います。
ところが、先発の「かな入力」法は、時の流れに押し流されて、シェアをじりじりと減らしていくことになりました……。
では、押し流された当時の理由は今でも通用するのか?と問われれば、それは今となってはまったく通用しません。
たとえば、パソコンで普通に使える「かな入力」は「JISX6002かな入力」唯一つであり、当時のような「標準的に使える「かな」入力法が2つ以上ある」という事態は、現状では発生しようがありません。
また、この入力法はタッチタイプを趣味とする人にとって「ローマ字入力よりも速く入力できる方法・ローマ字入力を極めた後にチャレンジするべき対象」という見方をされています……いわば「憧れの対象」になりつつある、という感じですね。
まれに「数字段にまでカナがあるからタッチタイプできない」という言われ方をしますが、それは「数字段をタッチタイプできない人が恨み言の代わりに言っているだけ」(*)かもしれず、かならずしも「JISX6002かな入力」の特性を表しているわけではありません。
(*:新JISかな(JIS X 6004)の設計時資料には「4段型よりも3段型のほうがタッチタイプ習得速度が速く、誤りも少ない」という趣旨の記述があり、それはつまり「両者ともタッチタイプを習得すること自体は可能である」事を指しています。)
また、当時20%程度のシェアだった「NICOLA」は、シェアこそ減らしたもののいまだに商業ベースでの商売が継続できる状態にあり、blogが普及してからはたまに「NICOLAを練習し始めました」という記事が上がることもあったり……と、「気づく人は気づく」「気づいた人が試してみたり、練習してみたりすることが出来る」状態を維持しています。
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入力法の「将来」について。
ローマ字入力系の入力方法にはローマ字入力の面白さと魅力があるように、「かな入力系」「漢字直接入力系」「速記入力系」の入力方法にはそれぞれの面白さと魅力があります。
色々試してみて、自分にぴったりフィットする「これだッ!と思う入力法」を探し当ててみてはいかがでしょうか。
服や靴を探すように、美味しい物を探すように、住み心地の良い家を探すように……入力方法についても「自分に合うものを探す」時代が来ることを望んでいます。
- 2007/08/26更新
- 2006/11/26登録
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