二重らせんの私 柳沢桂子
原因不明の病により、一度は尊厳死を決意しながら、奇跡の回復を果たした生命科学者・柳澤桂子さんの自伝的エッセイ。
少女の頃から、研究者になる人は違うんだなと思わせる。植物学者のお父さんの影響も強いことがわかる。微生物を対象とした生物学を専攻しアメリカに留学すると、DNAの二重らせん構造を初めとする諸発見に、分子生物学界は絶頂期にあった。その興奮にふれる。そして15倍の競争を突破してPhDを獲得する。しかし、帰国後、研究生活が軌道に乗った時期に、病気になる。科学が万能ではなく、苦しみをもたらすことも実感しながら、科学を愛してやまない姿勢には心を打たれる。
日本エッセイストクラブ賞受賞。
1938年生まれ。
お茶の水女子大学卒業。
コロンビア大学大学院修了。
慶応義塾大学医学部助手、三菱化成生命科学研究所主任研究員を歴任。
病気により研究所を退職後は生命科学などをテーマに著述活動を展開している。
以下、NHK人間講座より
生物学的な死というのは、私たちが日ごろ考えている死とはかなり異質なものであるということが分かります。私たちの意識する死というのは、人間の神経回路の中にある死、私たちが感ずる死なわけですね。でそれは心理的な死ということもできます。ここに存在する哀しさとか淋しさとか死別の辛さ、そういうものは生物の世界には全くない(?)のです。自然はとても冷酷です。私たちがどんなに苦しくても悲しくても、この個人の死という計画、個人を殺すという計画を確実に実行します。命には38億年の重みがあります。そして人間一人のことを考えてみましても、100年の意識の重みがあります。死は生命の歴史とともに民族の歴史、家系の歴史、家族の歴史、個人の歴史そういうものを全部包含する多面的なものだと思います。死までの歩みの中に私たちは、ほぼ100年という時間を許されているんですけれども、その中で私たちは自分を高め、それから完成へ向かうことを許されています。ですから死という最期の時が来るまで、私たちは生きてそして完成に近づくことができるわけです。ですから死というものはただ脳波が平坦になるとか、心臓が止まるとか、そういうだけのものではないわけです。
そう考えてみますと今日一日の重さというのが分かっていただけるのではないかと思います。私たちは先のことは何も分かりませんので、明日死ぬのかもしれない。もっと早く今晩死ぬのかもしれないんです。そのように考えますと今という時の重さ、大切さ、いとおしさが分かっていただけるのではないかと思います。
- 2007/06/18更新
- 2007/03/21登録
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