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日本語電子タイプライタ「OASYS」 (ニホンゴデンシタイプライタ オアシス)

 日本語電子タイプライタに搭載されていた入力法「親指シフト(NICOLA)」の入力法を、Webブラウザで簡易的にご覧頂くことができます。
http://www.eurus.dti.ne.jp/...
 InternetExplorerでご覧ください。
 始めにおなじみの【ローマ字入力】【JISかな入力】が、続いて【親指シフト(NICOLA)】を順に例示しています。
 入力速度はそろえていますので、「少ないコストで同じ速度を得ることができる」様子を確認いただけるものと思われます。

────────────────────
 日本初の「日本語ワードプロセッサ」……といえば、これは東芝のJW-10という機種です。
http://www.ipsj.or.jp/katsudou/...
 では、今皆さんが「日本語の文章を、下書き段階から直接記述するために」使っているであろう「対話式(逐次式)かな漢字変換」などの基本的な仕様は、全てJW-10を基礎としたものでしょうか?
 ……実は、ちょっとだけ違うようなのです。


 今皆さんが「当たり前に使っている機能・当たり前に使っているインターフェース・当たり前に使っている考え方」の多くは、仮の名を「日本語電子タイプライタ」と名乗り、市販機では「OASYS」という名称を冠した製品によって提供されたと言えそうです。
 このOASYS、始めて生産された機種には「OASYS100」という製品名が付くことになります。
 http://www.ykanda.jp/oascat2.htm


 そのときにある技術の集大成として製作されたであろうJW-10とは異なり、OASYS100の設計では「日本語電子タイプライタ」というコンセプトを満たすために必要な事柄が網羅的に検討されました。
 当時はワープロの開発競争が熾烈を極めていました……この前提を把握しつつ年表を眺めていると、常識的には「そこまで理想を追いかけなくとも、さっさとハコを作ってリリースすればいいのに……」と思いたくなるほどの過密スケジュールです。
 全体的には「狭く深く!」ではなく「浅く広く!(後の技術革新でどうにでもなる部分は省いたきらいがある)」という感じで、ごくごく基本的な部分からの見直しについて、多岐にわたる項目のために時間を割いていたことが見て取れるはずです。
http://d.hatena.ne.jp/maple_magician/...


 開発を指揮した神田さんという技術者は、目先の開発競争に勝つことを目的とはしていなかったようです。
 彼が見据える先にあるもの……それは「ホワイトワーカー全員に日本語電子タイプライタを……だから、行くぜ1,000万台!」という意気込みであったらしく。
 1,000万人の利用者時代を見据えて設計された「日本語電子タイプライタ」OASYS100の設計思想は、先に示した【突貫工事といいたくなるほど密度の濃いスケジュール】の中から、何一つ間違うことなく紡ぎ出されていきました。「浅く広く!」という戦略が良いほうに作用した好例かもしれません。
 「行くぜ1,000万台!」と言い放ってみせた当時は、「1,000万人利用者」というスケールの大きさにあきれられていたようなのですが……今では当時設計された方針が「パソコン・携帯電話・ゲーム機」などの様々な文字入力デバイスに受け継がれています。はじめから「1,000万人利用者時代」を見据えて設計していたからこそ、このコンセプトが広く世に受け入れられたのだと思われます。


 ここで、「日本語電子タイプライタ」OASYS100が提案した「日本語タイプライタのカギ」を、以下に列記してみることにします。

★紙に書かれた下書き文を清書するための機械ではなく、「下書き→推敲→清書」の全てを行うための機械として使えるように設計した。
──「創作文を一から作成できる機械を作る」というポリシーをかかげたため、以下に掲げる様々な機能を必要とすることになった。

★当時から存在した「頻度順・自動式」のかな漢字変換システムではなく、「対話式」のかな漢字変換システムを採用したこと。
──創作文を記述する上では、「どの漢字を用いるか・送り仮名をどう振るか・どこを漢字にして、どこをひらがなにするか」という点を、全て機械側の都合で決定するのは好ましくない……ということから、(辞書をひきつつ手書きで記述するのと似たスタイルになるよう)「対話式」のかな漢字変換システムを設計した。

★カーソルがある位置に「入力中のひらがな」や「確定前の漢字」などを表示する「インライン変換」を採用した。
──かつては「カーソル位置には文字を表示できず、画面下などに入力中の文字を表示する」というシステムも存在したが、そういったシステムは現在ほぼ駆逐されている。

★一度選択した候補が二度目以降には優先して表示される「変換結果の学習機能」を採用した。
──これは後の技術革新によって、「対話式」のまま「連文節変換」に対応するようになった……つまり、ユーザから見れば「対話式」のまま、内部的には「頻度順」の仕掛けを使うというシステム構成が生まれたことになる。もちろん現在でも現役の仕掛けである。

★内蔵辞書にない単語に「読み」を付けて登録し、あとから「読み」を入れて単語を引き出すことが出来る「辞書登録」システムを採用した。
──機械に登録されていない「漢字(外字)」を制作できるシステムはJW-10やそれ以前のオフィスコンピュータにも採用されていたが、漢字ではなく「辞書」を登録できるようにしたところが、ここでのポイント。これも現在でも現役の仕掛けである。

★文字の入力方法については様々に検討&実験を行い、結果として「タイプライタ方式の鍵盤」に行き着いた。
──実験結果から「親指と他指に限っては、同時に鍵盤を押しても支障がない」事を発見した。「同時」を厳密に定めることは出来ないので、タイマーを使って多少の揺らぎを吸収できるシステムを設計し使うことにした。
──50音順近似の試作鍵盤配列を即興で1つ作成して1ヶ月テストしたが、使い勝手が中途半端であった。
──入手可能な資料を用いた試作鍵盤配列を1ヶ月程度で1つ作成し、これを用いてさらに3週間程度テスト。始めの試作鍵盤よりも良好だったため、これを採用した。

★濁点(゛)キーと半濁点(゜)キーの「後打ち」をやめた。
──親指で押しやすい位置に「シフトキーを2つ」追加したため、従来からあった「シフトしない状態」「小指シフトキーを押した状態」のみではなく、「右シフトキーと文字キーを一緒に押した状態」「左シフトキーと文字キーを一緒に押した状態」も使えるようになった。文字を置く場所が増えたため、濁点や半濁点を後打ちせずに「一つのアクションで一つのカナを出す」スタイルをとれることになった。1901年に「濁点・半濁点を別のキーとして用意した」電信用タイプライタが出来たが、そこから78年が経過して、ようやくこれらのキーを発案者へとお返しする日が来た……と。

★下書きを推敲するためには広い画面が必要……ということで、当時の技術では製造困難だった「高精細・大画面」ブラウン管モニタを特注で用意した。
──小型の表示装置が許容されるのは「廉価機」と「ポータブル機」のみ……という市場の動向が判明するのは、まだだいぶ先のことであった。

★他社の同時期製品(机型が主であった)とは一線を画する、「デスクトップタイプ」をはじめから採用した。
──ブラウン管表示装置を採用するワープロは、(富士通製品に限らず)結局最後までOASYS100の姿をほぼ踏襲することとなった。そして、パソコンでもこの構成は未だに使われ続け、一定の評価を維持し続けている。


 以上に示すように、「日本語電子タイプライタ」OASYS100が提案した「日本語タイプライタのカギ」は、そのほとんど全てが【現在でも基本的なコンセプトは全て継承し、そして改良を経ている】状態にあります。


 ……さて、ここまででお気づきになった方がいらっしゃるかもしれませんね。
 「日本語電子タイプライタ」OASYS100が提案した「日本語タイプライタのカギ」のうち、一つだけは現在取り残されたままとなっています。
 それは【文字入力方法】です。
 OASYS100に搭載された「カギ」は、他は一つ残らず「改良」されて「継承」されています。
 文字入力方法だけはなぜか改良されず、そして取り残されつつあるのです……。


 ……と書くと「では、さっさと改良とやらをやればいいのでは?」という結論に飛びがちなのですが、事はそう簡単ではありません。
 OASYSは様々な「カギ」で構成されていますが、そのほとんどは「人間が触る部分の概念をあまり変えず、人間がうかがい知らない部分だけを改良することで、使い勝手の向上を果すことができる」という特徴を持っています。
 つまり、「人が直接触る部分は何も変わっていない」のです。
 そして、先ほど「取り残されつつある」と書いた「文字入力方法」は、その「人が直接触る部分」そのものなのです。
 ゆえに、「改良しました!だから慣れてください!」などと言っても、わざわざ面倒をおしてまで練習しなおす人は早々現れず、大抵の人は「改良されていないけれども、使い慣れてはいる」方法を使い続けようとします。
 これは、人間が生まれながらに持つ「行動手順は一切変えないことが最も注意を要せず、最も楽である」という考え方そのものです。
 人が生きていくうえで最もよい状態とは「多くの退屈と、ほんのちょっとの刺激」らしく、入力法の変更は「ほんのちょっとの刺激」といえるほどに簡単ではないことが、一番の原因なのかもしれません(これは、入力法そのものが持つ性質と、練習方法によってだいぶ変化するように思います……それと、本人の適性とか)。


 さて、「取り残されつつある」などと書いてはいますが、実はこのOASYSが採用した入力方法……普通のパソコンに「ソフトウエアをインストールすれば使える」代物だったりします。
 この入力法に関する権利関係は日本語入力コンソーシアムという団体が所有しているのですが、なぜかその入力法を再現するために必要な仕様は公開されていて、実際にその仕様に沿って動くソフトウェアが多数公開されています。
 この入力法を快適に使おうとすると、専用のキーボードが必要になるかもしれません。ただし、市販のキーボードでも大抵は問題なく使えるようになっています(キーボードごとに物理的な差があることを前提に、ソフトウェア側がその差を吸収するための仕掛けを備えています)。


 今皆さんが使っている「あって当たり前の機能」を実現するために、OASYSは設計されました。
 今皆さんが使っている「目の前にあるパソコン」は、そのほとんどがOASYSの目指した「日本語電子タイプライタ」としての素養を備えていて、もちろん時代の進歩と共に改良されてきました。
 しかし、もしかすると……今皆さんが使っている「目の前にあるパソコン」は、「日本語電子タイプライタ」にとって「あるべき機能」が、たった一つだけ欠けたままになっている……のかもしれません。


 もしも、この「目の前にあるパソコン」を、「日本語電子タイプライタ」の設計者である神田さんが目指した「日本語電子タイプライタ」として使用してみたい!とお思いの方がいらっしゃいましたら、いちど騙されたと思って(?)当時考案された文字入力方法を「目の前にあるパソコン」で使えるようにしてみると良いかもしれません。
 先に述べたとおり、普通は「操作方法は一切変えないことが最も楽である」わけで、慣れるまでは結構苦労するかもしれませんが……入力方法を乗り換えてみることで、始めて見えてくるものがあるかもしれませんし。
 この入力法は、【NICOLA】もしくは【親指シフト】というキーワードでインターネット上を検索すれば見つかるはずです。
 練習方法については……手抜きをしたい方は、とりあえず50音順で練習するPDF(5ページ目にNICOLAがあり)あたりをお試しください。


 文字入力法を変更するという行為は「手順の変更」なので、ペンや紙を買い換えるような「物理的な変更」とは異なります。
 手で書く行為で言うところの「手順の変更」といえば……たとえば「崩して書いていた文字を楷書で書くように改めてみる」とか、「楷書で書いていたものを草書で書くように改めてみる」とか……そういう行為に近いものがあります。
 手で書く場合を例に取ると、仮に「自分にとって、一番書きやすい書き方」を見つけることが出来れば、おそらく手はあまり疲れず、リラックスして、思ったことをすらすらと書けるはずです。
 パソコンを使った文字入力方法というのも全く同じ性質を持っていて、ただ記録方法が「書く」から「打つ」に変わるのみなのです。
 ゆえに、「自分にとって、一番打ちやすい打ち方」を見つけることが出来れば、おそらく手はあまり疲れず、リラックスして、思ったことをすらすらと書けるはずです。


 ……話は少し戻って、「OASYSがもたらした技術のうち、日本語入力法だけが改良されていない」というお話について。
 日本語入力コンソーシアムはその立場上、人に対して練習という負荷を強いるような「覚えなおす必要性がある改訂などは出来ない」ことは先に述べました。
 現在改良済みの入力法として公開されている「NICOLA」入力法は、基本的にその前にあった「親指シフト」入力法に追加の規則を載せたのみであり、覚えたくない人は従来どおりの「親指シフト」のままで使えるという状態にあります。
 「使い慣れた入力法を、そのまま使い続けられるような環境を維持すること」が日本語入力コンソーシアムの使命なのですから、これは当然の対応といえそうです。


 一方で、「NICOLA」入力法を改良しようという試みは他者によって成されています。
 とても近い時期においては、「新JISかな配列(JIS X 6004)」と「TRONかな配列」という2つの入力法が発表されています。どちらも、NICOLAと同じくソフトウェアを導入することによって使用することが出来ます。


 「新JISかな配列(JIS X 6004)」では、NICOLA類似の鍵盤を用いた入力速度測定を行い、「JISキーボードをNICOLAのようなコンパクトな入力法へと変えよう」という目的を持って作成されたようです。
 OASYSの設計段階では「キーボードに行き着く」までにかなりの時間がかかり、「キーボード自体の改善」はわずか1回、検討期間も2ヶ月弱しか取ることができませんでした……そのため、後の開発者は(キーボードが最適であるというOASYSの考え方を元にして)「キーボードを使いやすくするために、キーボードを前提とした入力法の設計に長い時間を費やす」ようになりました。
 残念ながら普及には至りませんでしたが、【手指の運動特性を調査するために、3年かけて測定を繰り返した】とか、【手指の運動特性はコンピュータで簡単に真似することが出来ないので、人力による打鍵評価を行い、256個ずつ選別していた入力法をふるいにかけていった】などの斬新かつ実直な調査をもとに入力法が決定されています。
 この入力法やコンセプトには定評があり、後述する「中指シフト」と組み合わせたうえで、後に「月配列」と呼ばれる入力ポリシーを生むキッカケとなりました。


 「TRONかな配列」では、NICOLAで規則化されていた部分を崩しつつ、「新JISかな配列(JIS X 6004)」のような人力評価をする代わりに大量のデータを用いて製作された入力法です。「TRONキーボード」もしくは「μTRONキーボード」での使用を前提に製作されているようですが、一般的なキーボードで使用することも出来ます。


 1990年代以降には、主に個人製作によるローマ字入力を基礎としたたくさんの入力法が提案されました。
http://www4.atwiki.jp/...
 また、NICOLAが採用していた「親指シフトキー」ではなく、中指ホームポジションにある文字キーをシフトキーのように使う「中指シフト」という方式を使った「花」という入力法も提案されました。


 1990年代終盤以降(特に2004年ごろ以降)には、主に個人製作によるひらがな入力法も提案されるようになりました。
http://www4.atwiki.jp/...
 ひらがな入力法はローマ字入力法よりも設計が難しいのですが、その分だけより特色豊かな入力法が生まれつつあるようです。


 ところで……26個のアルファベット(大文字小文字を別に数えれば52個)と数字記号があれば事足りる言語圏では、【機械式のタイプライタのみで十分実用になる】ため、とても早くからタイプライタ鍵盤による文字入力が普及しました。
 英文タイプライタは1873年には市販されており、既に130年以上の歴史があります……つまり、「タイプライタを触ったことがない世代はほぼ誰もいないし、学校でタイプライタ鍵盤をつかう授業も古くから行われている」はずなのです。


 一方で日本語は、ひらがなだけでも90文字近くあり、ほぼ同数のカタカナがあり、数字があり、漢字がたくさんあり……という状況で、普通の人が「普通に機械式タイプライタを使う」には、あまりにも無理がありました。
 日本において実用的にタイプライタ様の機械が普及し始めるキッカケになったのは、まさに「日本語電子タイプライタ」でした。
 これが登場する1980年以降になって、ようやく日本国内での「日本人にとってのタイプライタの歴史」が始まったと言えそうです。


 日本国内において、鍵盤を用いた入力法が確立してから「わずか25年しか経っていない」……それが実情なのです。
 日本語電子タイプライタの代わりであるコンピュータは、いまだに【あるべき姿へと立ち返る】ことも、【あるべき進化を遂げる】ことも成し遂げていないのではないか……と、私はそう感じています。


 本当の意味での「日本語電子タイプライタ」を理想とすると、今不足しているのは唯一つ……【自分自身にとって使いやすい入力方法を、どんなコンピュータであっても間違いなく選択できること】なのかもしれません。
 入力法を軸に考えると、人にも機械にも、まだまだ進歩の余地というものがあるのかもしれませんね。

日本語電子タイプライタ「OASYS」

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投稿者:
相沢かえで
  • 2007/05/01更新
  • 2007/01/21登録
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