夢がたり/久保田早紀
1979年に言わずと知れた「異邦人」で、彗星の如くデビューを飾った久保田早紀のデビューアルバム。
当時彼女は21才。特に何かのコンテストで賞を穫ったわけでもオーディションに通ったわけでもなく、どちらかと言えばそっとデビューした小娘のデビューシングルとは思えないほど気合いの入ったそのサウンドは、CMに起用されたとたんあっという間に大ヒット。
その勢いを受けて制作されたこのアルバムも、名匠萩田光雄の渾身のアレンジと、当時最高峰のスタジオミュージシャンによる最高のプレイに支えられた珠玉の名曲揃いで、もちろん大ヒット。1979年リリース。
好きな曲(もちろん全曲素晴らしい)
「ギター弾きをみませんか」:このアルバムを初めて聴いて、最初に惹かれたのがこの曲。全編ガットギターによるボサノバタッチなんだけど、南米の明るさはなく、行ったことはおろかロクな知識もないポルトガルあたりの暗い町並みを思い浮かべさせられるのが不思議。
「帰郷」:‘この坂を登りつめると 故郷の街が見える’で始まる歌詞がとにかくイイ。ブラッドベリ風のセンチメンタリズムと曲のトーン、そしてドラマティックに変化するリズムパターンが色鮮やかにピタッと決まって、まるで映画のワンシーンのよう。
「白夜」:イントロのフェイドインするストリングスから、まさに‘白夜’ですよね。ああもう、なんて見事なアレンジ。歌詞ははっきり言って少女漫画なんだけど、その痛いほど純真なひたむきさが胸を打つのですよ。恋とか愛とかではなく、大好きだった懐かしい人にもうすぐ会えるという胸の高鳴りが共感出来るのです。
「ナルシス」:神懸かり的な名曲。これだけ異国情緒を漂わせながら、ましてや僕とは何の接点もない少女の物語なのに、泣きたいほど懐かしく寂しい気持ちにさせられるのは何故。
とにかく‘絵’が浮かぶのですよ。それも僕の記憶の中にはない異国の風景が、懐かしい感情とともに。
聞き終わった後は、まるでどこかに実在する異国の少女の想い出と同化したかのような気分になります。
非の打ち所のない叙情的で映像的な歌詞と、美しく寂しげなメロディー、そして贅沢なアレンジに完璧な演奏。
もちろん日本のポップス史にはこのアルバムに匹敵するような名盤はいくつかあるけど、日本を舞台にしている以上、どうしても時代の流れの中で色褪せる部分が出てくるんですね。
ところがこのアルバムは、すでに遠く古い異国を舞台にしているので、まるで童話のように色褪せることがないのです。虚構の物語の中で描かれる、誰もが持っている‘郷愁’の想いが、いつまでも胸に残るのです。
それにしても、ジャケット写真がなんと美しいことよ。アート面でも完璧な一枚。
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