Experience Le Corbusier Firsthand in his 120th Year / MAM
ル・コルビュジエ展:建築とアート、その創造の軌跡 / 森美術館
20世紀を代表する建築家は誰か、と尋ねたら多くの人がル・コルビジェの名を挙げることだと思います。1887年、スイスの山岳地帯ラ・ショード・フォン生まれの建築家、ル・コルビジェ(シャルル=エドゥアール・ジャンヌレ)が生誕して120年目にあたる本年、コルビジェの創造世界を体験的に紹介する展覧会が9/24まで、森美術館にて開催されています。
今回の展覧会の目玉はなんといっても実物大に再現された空間でしょう。集合住宅のマルセイユ・ユニテのメゾネットと、終の棲家である別荘のカップ・マルタンの休暇小屋、そして自宅のアトリエを体験することが出来ます。建築には門外漢の自分は、コルビジェの建築物で実際に訪れたことがあるのは上野の国立西洋美術館のみだったのですが、興味深く楽しい体験でした。感想は、思ったより小さい(!?)です。特にカップ・マルタンの小屋はここに二人寝泊りしていたのか…と思うくらい、インテリアが幅をきかせていたからでしょうか、狭く感じました。(私が大柄のせいかも?) ユニテは、なんというか不思議なんですが、中にいるだけで外国みたいだな…なんて思ってしまいました。(当たり前なんですが)日本の規格と違うだけで、とたんに異国のもののように感じるなんて。コルビジェが開発したモデュロール(人間の身体寸法を基準として開発された尺度)って凄いなと、あらためて実感したりしました。空間に差し込む光も不思議なリアリティがあり、美術館の中のような気がしませんでした。
ル・コルビジェ、本名シャルル=エドゥアール・ジャンヌレは1887年にスイスのラ・ショード・フォンという、時計細工で有名な山間の村に生まれます。当然のように時計の装飾職人を目指したコルビジェですが、目が悪かったため建築科に転向します。それが、巨匠を生むきっかけとなるのです。ラ・ショード・フォン時代にコルビジェがデザインした時計をみると、幾何学的な文様と有機的な文様の共存が見て取れます。モダニズム建築で一世を風靡したコルビジェの作風が、そのキャリアの後期には有機的なモチーフに変化していった、その二極の要素の共存の有り様が、まったく無名の青年時代のデザインに既に在るのです。コルビジェは、謎に包まれたアーティストだというイメージがありますが、私は個人的には大学時代の講義で教わった、この時計のエピソードが忘れられません。実際、コルビジェは午前中は自宅のアトリエにて絵画制作を行い、午後に自身の事務所へ出品する、というような二重の生活を晩年まで続けました。
人間は、かくようにふたつの両極の要素を共存させることが出来るのか…。 弟子達の証言により、ナイーブで神経質だったコルビジェの素顔が多数報告されていますが、質実剛健なイメージの裏側で、貝殻や小石を愛するロマンチストの顔がありました。都市計画のような壮大なプランをうちたてる一方、妻との親密な空間で過ごす時間を愛していたりする。
家にはふたつの目的がある。まずそれは<住むための機械>である。……だがそれに続いて、家は瞑想に役立つ場所であり、なにより美が存在し、精神に欠かすことの出来ない静謐をもたらしてくれる場所なのだ。……一方における技師の仕事、他方における建築。
「現代建築年鑑」(1926年)
「家は住むための機械」という言葉は有名ですが(当時は批判された)、それに続くもうひとつの目的、精神性や美意識…コルビジェは常に自身の建築論のなかに両義性をとなえていました。
20世紀は近代的合理社会が押し進む一方、自然主義やヒューマニズムの運動が生まれましたが、そんな人間のもつ相反する要素の実態を、コルビジェを通して伺うことができるような…そんな気がするのです。時代を経て、社会の様相はますます複雑になっていきますが、人間そのものは相も変わらず多面的で複雑で故に単純だと…そんな「生き方」を問う姿勢は、現代にこそ有効なのではないでしょうか。
2006年には、コルビジェが晩年まで手がけていたフィルミニー・ベールのサン・ピエール教会が完成したそうで、その模型と映像も見ることが出来ます。近年、世界各地にあるル・コルビュジエの作品の数々をユネスコの世界遺産に登録しようという動きがフランスを中心に起こっているそうです。生きている間は、常に人間の生きる理想を建築と都市で実現させようと志していたにも関わらず、政治的抑圧や時代の流れに屈しざるを得なかったコルビジェ。21世紀の現在、彼が生きていたらこの世界の人々の生活を、環境を、どのように捉えるのでしょうか。彼が生涯問い続けた「建築とは何か」という問いは、これからも問われ続けていくことでしょう。見失いがちなシンプルなこの問いを再確認するような、生誕記念に相応しい展覧会だと思いました。
森美術館 2007年5月26日(土)~9月24日(月・祝) <会期中無休>
http://www.mori.art.museum/contents/...
- 2007/06/13更新
- 2007/06/12登録
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最新コメント5件
2007/06/14
プーク キイさん、調子はいかがですか?密かにとても心配でした…(ここに書くのもなんですが) 日曜美術館でとりあげられるのですね、放映後は混みそうです。今回の展覧会は「体験」がキーワードになっているので、映像や写真ではわからない体得があると思いますので、是非行かれるとよいと思いますよ…!日本の建築ならいざ知らず、コルビジェの建築を体験しに海外なんて行く機会ないですから…。それはそうと、私のKWの書き出しが「日曜美術館的」だととある方に指摘され、なんだか本当に「展覧会ピックアップ」のナレーションのような気がしてきました…番組、私もみてみようと思います。。。
プーク 雲衣。さん、ご指摘有難うございます。そうですね、「20世紀を代表する建築家」という表現は安直のように思います。(殆どの人が挙げる、というのは言いすぎだと思い訂正しました)仰るとおり、「建築」は一人の人間がつくるものではなく(人材という意味のみならず)、環境や時代や体制や政治、色々な要素がからみあって形成されるものだと思います。しかし、なぜコルビジェはそのパーソナリティにスポットライトが当たるのか(偶像崇拝的に)…私は専門家ではありませんので(ましてや思想家や批評家でもないので)わかりませんが、今回の展覧会に見られるような芸術活動(絵画や彫刻の制作)にあるのでは、と思ったりします。その作品群が、ファインアートを専門にしている作家達のそれと比べてどうか、といったらどうなんだ、という疑問はありますが、昨今でも答えのでない「機能と装飾」というアクチュアリーな問いを提案したのは、ひとつの功績ではないかと思います。他にも功績はあると思いますが、専門的な建築の切り口は、他のもっと優秀なユーザーの方にお任せしたいと思います。自分の立ち居地でうまく切り口がまとまらなく、中途半端なKWをあげてしまい反省しています。(懐中時計のエピソードはとても詩的でうつくしいですね)
あぷりこ プークさん丁寧なレスポンスありがとうございます!旅行して実際にコルビジュエの建築に触れてみたいですね!きっと机上で考えてるのとは違う風が吹いてて、きっと言葉にできない感動があるのだろうと思います。だから、ヒトは惹きつけられてやまないのでしょうね。
2007/06/17
まつ 今朝、NHKの新日曜美術館でル・コルビュジエの特集をやっておりました。これまで私の中ではコルビュジエの代表作は四角い椅子でしたが、考えが変わりました(笑)。森美術館にも行ってみたいと思います。ちなみに再放送は20時から(もうすぐ)です。
2007/06/20
プーク すみません、一度投稿したコメントのリンク先が不適切との指摘を頂きましたので、リンクはずしたものを再投稿します。>まつさん、コメント有難うございます!自分でも言い出しておきつつ、折角まつさんにもお知らせ頂きながら、「新日曜美術館」を見逃してしまいました…あわわ、、すみません。番組サイトをみると、どうやら展覧会に即した内容になっているようですね。 まつさんが仰るとおり、人によってはコルビジェといえば四角い椅子(グランコンフォール) だったり、サヴォア邸だったりすると思います。なんというか、その多面性というか、どこをきりとってもコルビジェ…という感じが個性であり偉大さではないかと思います。新日曜美術館、再放送しないでしょうか…。展覧会ではコルビジェの名作椅子にも沢山座れます、是非いかれるとよいと思います!
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