ソースカツ丼まん・哀愁編
信州では何処に行っても丼ばかりだと書いたら、それを見た爺様からお叱りを受けた。では何が流行なのかと問い返したら、今は饅頭であると云う。
「ふ~ん」
「おまえさん わしを莫迦にしとるじゃろ」
「全然 でも いったいどんな饅頭があるの?」
「今度持って来てやるから 驚いてすわりションベンしたって知らないもんね」
「あのねぇ 『火焔太鼓』じゃあるまいし そんなことくらいで驚くもんですか」
「ほほぉ 大きくでたな」
「大菊も小菊もあるもんか」
なんてな遣り取りがあって数日後、爺様が大きな紙袋を持ってやってきた。
「どうだ 驚いたか」
「まだ中身が入ったままですけど」
「おお そうじゃった そうじゃった」
「だから耄碌はしたくない」
「るさいね 黙って見てなさい」
爺様は中からハンバーガーの包みのようなものを六つ取り出し、テーブルの上に並べた。
「先んず これが『信州肉まん』だ」
「ぎょえ~ でも 普通の肉まんじゃん」
「見た目もそうだが 食べても普通の肉まんじゃ」
「あ~ 驚いた」
「むふふ 次は『山葵肉まん』じゃ どうだ」
「うひょ~ 山葵を無理やり入れたりして」
「喰ってみろ 美味くも何ともないから」
「だと思った」
「がはは 続いて『鹿肉まん』だ 凄いだろ」
「ぎゃあ~ 南アルプスの鹿肉って書いてある」
「蝦夷鹿が混入されるのも時間の問題だで」
「もう 予定に入っているのね」
「まだあるぞ 今度は『ジンギスまん』だ それッ」
「あ~れ~ ご無体な」
「信州には羊もあるでよ」
「何でも入れればいいってもんじゃない」
「文句があるなら 作った奴に言え」
「そう云う発想がそもそも問題だと…」
「まだ云うか」
「所詮は矮小なる井の中の蛙文化です」
「うぬ~小癪な奴め それではこれでどうだ」
「何ですこれは」
「史上最強『ローメンまん』だァ 思い知ったか」
「どひょお~ 焼きそばパンと同じじゃん」
「信州名物を舐めたらアカン」
「食べたくないから 舐める気もしません」
「そこまで云うか」
「あくまで冷静沈着がモットーですので」
「ならば 仕方ない」
「おや 目つきが変わりましたね」
「これぞ一撃必殺と云われるのを見せてやろう」
「まさか…」
「覚悟しろ」
「『ソースカツ丼まん』ってんじゃないでしょうね」
「うぬッ 何でそれを知っておる」
「あはは とっくに食べちゃったもんね」
***
「ソースカツ丼まん」と名乗ってはいるが、ソースカツとソース飯を饅頭の皮で包んだものに『丼』を付けるのは如何なものか。
少なくとも丼であるなら、木椀であろうが陶碗であろうが、器に盛られていなければならない。
それを幾らソースカツ丼の名が知られるようになったからと云って、そのまま品名に流用するとは安直に過ぎるのではないか。
ボクの噺には筋が通っている。
爺様は反論もせずに去って行った。
おそらく 一緒に食べたかったのだろう。
後ろ姿が少しだけ丸くなっていた。
- 2007/06/24更新
- 2007/06/24登録
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