「残菊物語」
1939年に公開された、溝口健二の芸道物映画。明治30年に早世した歌舞伎役者二代目菊之助と、菊之助の弟(後の六代目菊五郎)の子守、お徳の身分違いの恋と芸道の苦労を描いた物語。菊之助役を新派の花柳章太郎、子守お徳を森赫子が演じた、上演時間2時間30分近くにわたる堂々たる大メロドラマである。
溝口健二の作品には、真山青果の「元禄忠臣蔵」や、歌舞伎役者を起用した作品など歌舞伎の世界と繋がりのある作品が多いのだが、この作品、歌舞伎好きは特にみておいて損がない作品である。30歳で亡くなった二代目菊之助の実話が元になっているということもさることながら、当時の楽屋の様子や、養子先に実子が生まれた養子の御曹司を取り巻く状況、歌舞伎界、大阪の芝居小屋、旅回り芝居の悲惨さを描いたシーンなど見所はたくさんある。他に劇中劇としては『四谷怪談』、『関の戸』なども演じられている。
花柳章太郎の演技は、セリフに詰まるところや、噛む所が数箇所あるのはご愛嬌。たぶん、舞台俳優とはいえ、ワンシーンが長すぎるのだろう。花柳章太郎はちょっと見た目が、今の福助に似ている。劇中劇の『関の戸』の演技に関しては、やはり新派の人なので、型のきまりが明確でない気がする。ヒロインの森赫子の、芯は強いが、はかなげな風情はいい。五代目菊五郎を演じた、河原崎権十郎の演技もこの映画を引き締めている。菊之助の親友、福助を、高田美和の父高田浩吉が演じているが、ちょっとなよっとした正統派美男子である。
溝口の映画を見る目の快楽は、私にとっては、長廻しの場面の素晴らしさにつきるのだが、この作品でも菊之助とお徳が夜の街をそぞろ歩くシーンで、10分近い引きの長廻しが繰り広げられる。このシーンが本当に素晴らしい。







