ナカハラチュウヤ
中原中也
大正、昭和初期の詩人。日本の叙情詩の頂点を極め、現在でも最も読まれている詩人のひとり。
中也の詩は本人が言っているように、まさしく「歌」なのです。戦後派以降の詩人がどんな技巧をもって、イメージを作り上げても、中也と同じ感動を与えることはできなかったように思います。どんなにつたない言葉を選んでも、それが感動を与えてしまうのは、中也にとって詩を書くことは「生きること」であったからでしょう。
中也の詩に対する思想は「名辞以前」と呼ばれる、以下の一節によく表れています。
「これが手だ」と、「手」という名辞を口にする前に感じてゐる手、その手が深く感じられてゐればよい。
『芸術論覚え書』
中也は逸話にも事欠きません。17歳のころ、当時中也以上の天才詩人だった富永太郎にランボー、ヴェルレーヌを教えられる。東京に上京後は親友で「批評の神様」の小林秀雄に恋人を奪われ、富永太郎を病気で失う。太宰治の初対面では突然からんで、泣きべそをかかせ、坂口安吾の初対面でもやはり突然殴りかかり、仲良くなってしまったりしている。
2000年に新しくなった全集が出ました。装丁から構成まで、とてもすばらしいです。私は岩波文庫の「中原中也詩集」をボロボロになるまで読みました。
中也の批評・解説は、以下のものがおすすめ。
・小林秀雄『中原中也の思い出』など
・中村稔『名詩鑑賞 中原中也』
・大岡昇平『中原中也』
・大岡信『現代詩人論』
・ユリイカ2000-6 特集「中原中也」
以下は自分がとくに好きな詩。
老いたる者をして
--「悲しき秋」第十二
老いたる者をして静謐の裡にあらしめよ
そはこころゆくまで悔いんためなり
吾は悔いんことを欲す
こころゆくまで悔ゆるは洵に魂(たま)を休むればなり
あゝ はてしもなく涕かんことこそ望ましけれ
父も母も兄弟(はらから)も友も、はた見知らざる人々をも忘れて
東明(しののめ)の空の如く丘々をわたりゆく夕べの風の如く
はたなびく小旗の如く涕かんかな
或はまた別れの言葉の、こだまし、雲に入り、野末にひびき
海の上(へ)の風にまじりてとことはに過ぎゆく如く……
反歌
あゝ 吾等怯懦(けふだ)のために長き間、いとも長き間
徒(あだ)なることにかゝらひて、涕くことを忘れゐたりしよ、げに忘れゐたりしよ……
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