関心空間はアートのクチコミも満載!

新着

... もっとみる
ログイン | ユーザー登録(無料)

大野一雄 堀江英公 『胡蝶の夢』

  • 大野一雄 堀江英公 『胡蝶の夢』の画像

ついに、睡眠薬の量を増やしたさ。
もちろん、お医者さまに相談して、のことだけれどもね。
いままでの、ほぼ倍量さ。
結果。
かわれへんやん。相変わらず、1時間で眼が醒めたことであったよ。

そんなわけで、わたしの朝は今日も早いのであったさ。
こんだけまとまった時間があるのだから、
本でも読めばいいのだろうけれど、
わたし、作家になりたい、というわりに、
あんまり本読まないのであることなのだよね。
わたしの軽蔑する人気作家某は、よい作家とはよい読者である、
みたいなこと言ってたっけね。
作家は、よく活字中毒、っていうけれど、
わたしは、書記中毒であっても、活字中毒ではないことであるよ。薬の説明書とかは、隅々まで読むけれどもさ。

そんなわけで、堀江英公が大野一雄を40年だかに渡って、
追ったという写真集、『胡蝶の夢』を眺めたわけであったよ。
大野一雄が、蘇我簫白の絵と混じり合う写真が、印象的だったね。絵をさ、壁に映し出して、その手前に大野一雄がいる、
ってことになってるわけなのだけれども、
そこでは、二次元と三次元、描かれたものと生身の人間、
さらには、死したものと現在、
という時間が襞をもち重なり合って、
つまりは、時間と空間、生と死、そんな対立軸が、
融解してしまっているわけであるのさ。
伊藤若沖の絵とも、そんなこころみがされていて、大野一雄も、
浮世絵の一部になってしまったかとおもわれるほどであったよね。
ほんと、何度も何度も観ているけれど、
いつの新鮮な驚きを与えてくれるのさ。

普通さ、絵が映し出されたスクリーンの前に立って、
自分にもその絵が映されたところで、
ああ、人間に映っちゃったなあ、で済むとおもうのだよね。
ところが、大野一雄はそうではないんだ。
竜虎魑魅魍魎の世界に入りこんで、
その世界の住人になってしまうことであったさ。
舞踏、ってのは、そんざいの芸術だと、
わたしはおもっていたのだけれど、
これら一連の写真を観て、わたしはそのおもいを、
さらに強くしたね。
大野一雄は、そのそんざいそのものが、芸術であるのさね。

わたし、大野一雄が倒れる、ちょいとばかし前に、幸運にも、
彼の舞踏を間近で観たのだよね。
息子の大野義人との二人舞台でさ。
舞台、っていっても、ちいさな空間を、
観客がとりかこむようなかたちになっているわけなのだったよね。だから、もう、手を伸ばせば届く距離。

いくつかプログラムがあってさ、まず印象に残ったのは、
プレスリーの『愛さずにはいられない』をBGMに、
大野一雄が一人で舞うところね。
『愛さずにはいられない』って、ちょっと待てよ、
あまりにべだだろ、普通、それで踊らないだろ、
ってなもんだよね。つまり、消費されすぎているわけさ、曲が。
美しい曲だけれど、それは、もう、手垢まみれ、
襤褸ぞうきんのように擦り切れていることであったよ。

ところが、そこに大野一雄の舞踏が加わると、かの曲は、
まったく違った相貌を呈するのだよね。
それは、一瞬にして漂白され、硬化した角質がたちまち剥離して、けれども、その曲が生まれたときそのままではない、新たな相貌、魅力を持った極として響いてくることであったのだよ。

これは、身体の詩だ、わたしはそうおもったね。
詩、ってのはさ、なにが魅力か、っていうと、
ひとが日常使うことば、その組み合わせの妙とか、ときには解体して再構築する、
といったことをすることで、
いままで何気なく惰性的に使っていたことばに、
あらたな閃光の如き輝きを賦与することではないか、
とわたしはかんがえているのであるよ。

大野一雄がしたことも、同じ。
巷で流れていても、聞き慣れすぎて、
もはや立ち止まることもない、いわば引力をなくした曲に、それに寄り添い舞うことで、あらたな生命を吹き込んだわけさ。
それは、なんて深い愛だろ、わたしはそうおもうことであったさ。

大野一雄は、そのそんざいそのものが、愛、なのだよね。

もうひとつ印象的だったのは、大野慶人とのふたり舞台。
大野慶人は、こなたからかなたへ、
何を求めているかわからぬまま、視線を虚空に、動き続ける。
それに、おずおずと、大野一雄がついてゆくのだよ。
そして、ときに、震えるほどに、その腕いっぱいに力込めて、
慶人に、触れようとする。
あと少し、あと少しで、指先が届きそう、その刹那、
電流に打たれたように、大野一雄は、その腕を、引っ込めるのさ。
どうしても大野一雄は、慶人に触れることができない。

これは、コミュニケーションの不可能性をあらわしている、
とわたしは感じたことであったよ。
ひとは、他者の内奥に、真に、触れ、
完全に理解することは、できない。
それを求めて、求めて、
だから、わたしはことばを継ぐのだけれど、
それは、触れても触れても、
他者のそんざいすべてを触れきることは叶わない、
あのもどかしい愛撫のように、
どこまでも、到達することのない営為でしかないわけであるのさ。

他者を愛したい。そのすべてを受け容れたい。
けれど、他者を完全に理解することはできない。
その真実に触れることはできない(そもそも、その真実、
ったって、それすら、霧の如し、不定型であるのだけれどもね)。この、いかんともしがたい痛痒感に、わたしは、身悶えるさ。
けれども、だからこそ、ひとは、さらにさらに、
コミュニケーションを求めてしまうのではないかね。
すくなくとも、わたしはそうであるように、
おもわれることなのだよ。

そして、その、不可能性への、そうと知りながら、
求めずにはいられない、希求、その別名が、
だから、「愛」なのではないかね。
自分に対してだって、そうさ。自分のなかの真実、なんてもの、「正確に」把握することなんて、できやしない。〈わたし〉は、
他者の寄り集まり、パッチワークの如きものであるからね。
しかも、それが、アメーバのように、留まることなく、
しじゅう、のたくり、蠢いている。
わたしとは、他者であるのさ。
でも、だからこそ、わたしは書かずにいられないし、
ひとはことばを発せずにはいられないのではないだろうかね。
「あれ」に届きたくて。
それが、たとえ不可能とわかっていようとも。
けれども、やはり、望むものに手が届くことはなく、
わたしは、痛む。
わたしの想いとことばは一致しないのに、それでも、どうしても、あなたこの想いを伝えたくて、それに押し込めて語るものだから、あちこち、傷だらけになる。
あるいは、覚束ないことばを他者へと届けて、けれども、
そのことばは、たちまち、見ず知らずのことばとなって、剥離し
発話者の意図を裏切ってしまう。その破片が、わたしを傷つける。
そんなこと、わかっているのにね。

だから、発話行為は、自傷行為でもあるのさ。
そんなふうにおもうわたしであったよ。
けれども、わたしたちが、痛みながらも、
コミュニケーションをするのは、
そこに、自分への、他者への、愛が、愛の渇望が、
あるからではないかね。
あらゆる痛みを受け容れて、それでも、
また一歩すすもうとする、勇気。
だから、わたしは、ことばとは、愛である、って書いたのさ。

そういえば、大野一雄も、こんなことを言っている。
「愛は痛む。…愛は限界なく続くものだ、と。…いくらやっても、やり足りない。だから、そういうなかから、愛というのは成立したんだとおもうのね」

「天地創造の初めからですよ。現在に至るまで繰り返し繰り返し、現在がどれだけ大事な現在であるか感謝すべきことがあるか、
涙流して膝沈ませてことばもないようななかでこうしているのが、
現在、現実だ」

「ある気持ちにあなたが入っていったとき、その気持ちを、
その気持ちから離れないように、その気持ちだけで限界のない世界に入りこむことができないだろうか。
その気持ちが刻々と変わることなくして、
それ一筋でどこまでも突入する。飛んだって跳ねたって転んだって、
何をしたってその気持ちは離れない。
だけど、どんな気持ちだっていいというわけではない。
うん、これだ、とおもったとき、それをもとにして、
どこまでもどこまでもただ一筋にその気持ちで織物を編むような、天まで届くような織物を編んでもいいでしょう。
ある気持ちの限定したなかで、
無限の世界に入ることができないだろうか。」

この3番目のことば、ある気持ち、を、わたしは、
愛、と書き換えてみたいことであるよ。
愛、そのなかみは大野一雄が言うこととは違って、
変わるかもしれないけれども、それでも、やっぱり、
そういう芯のある、そんざいそのものにかかわる、
他者を求める感情ってのがあって、
それが、うん、これだ、っておもうことでさ、
すくなくとも、わたしにとっては、歪で、有限でしかない、
無様な、愛、って感情、それを天まで届け、と、あなたまで届け、と、編む、そうすることで、無限のあなた、というそんざいに、
その不定型の真実に、すこしでも触れることができたら、
そう願わずにはいられないわたしであったよ。

ともあれ、こうしたことばを読むにつけ、
やはり、大野一雄は、そんざいそのものが、
愛、であることだよね。

大野一雄 堀江英公 『胡蝶の夢』

このページに
携帯でアクセス

2次元バーコード対応の携帯で読み取ってください

yoko-mina画像 投稿者:
yoko-mina
  • 2007/07/24更新
  • 2007/07/22登録
  • 358クリック

ソーシャルブックマーク

  • このページを含むはてなブックマーク
  • このページを Yahoo! bookmarks に登録する
  • このページを del.icio.us に登録する
  • このページを livedoorクリップ に登録する
  • このページを POOKMARK Airlines に登録する
  • このページを Facebook に登録する

このキーワードはコレクションに選ばれています(1)

コメント (0)

まだコメントされていません。

つながりキーワード (0)

まだキーワードがつながっていません。

携帯でこのページにアクセス

大野一雄 堀江英公 『胡蝶の夢』

2次元バーコード対応の
携帯で上の画像を読み
取るとアクセスできます

トラックバック (0)

まだトラックバックされていません。

トラックバックURL
http://www.kanshin.com/tb/keyword-1176236

関心空間人気のキーワード

キャンペーン

ページの先頭へ ページの先頭へ