「びげいこう」(つついやすたか)
「美藝公」(筒井康隆)
日本では政治家や官僚の芸術に対する関心は低い。それはビジネスの世界でも「金が余ったら芸術に」という程度に思われていることが少なくない。仕事や生活の中で壁にぶつかった時に、どれだけ音楽や小説、映画に助けられたことだろう。雑踏を歩いたり車窓からの景色を眺めていた時に、耳からの音楽だけでどれだけ嬉しいインスピレーションをもらったことだろう。
これは戦後の日本が映画産業立国として復興していく様を描いた作品。清く正しく素晴らしいスター「美藝公」は民衆から絶大なる人気を得ている。美藝公の新作は常にあらゆる角度から検討された内容で、全国民はもちろん政治家、産業界でも最大の関心事である。もしこの世の中が「映画」でなくて「経済」が中心だったらどんな世界になっていたのだろう、と小説の中で登場人物が尋ねる。新聞社でも経済担当者が幅をきかせて、世の中も数字刻みになるだろうとあらゆる想像をする。皮肉にもそれは私たちが今生きている世界そのものなのだ。パラレル・ワールド。しかし読後に「あーあ」と落胆する感じもない。なんだか美しい人々に出会った後の清々しさのようなものが残る。
だけど、ちょっとうらやましかったり。
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