「死ぬ瞬間」
近ごろの新訳ブームは、文学作品にとどまらず人文・社会の諸方面にもおよんでいるが、エリザベス・キューブラー・ロスの『死ぬ瞬間』もまた、英米文学のスペシャリストによる手を経て、「フレッシュな名訳」(アマゾンにも掲出される「MARC」データベースの表現)が与えられたのだという。喜ばしいかぎりだが、ならば私はあまのじゃくだから、原著『Death and Dying』が死に向かいつつある(dying)人びとの「過程」――けっして「瞬間」をではなく――を描いたのである点が歪められていた、その翻訳書題名のミスリードまでこの機会に正してほしかった、と思うものである(初訳時の題名のインパクトとその定着したものの連続性の確保が有益なのも理解できるが)。
ところで本項は、上記書物をキーワードとして紹介するフリをみせながら、そのじつ、私のアパートの玄関先の季節外れの朝顔の、上の主張と相容れない印象も辞さず「瞬間」的だったとさえ記したい、その死を、正式に報告するものである。正式にというのは、第一報はすでに11月09日付「どうかしてしまった中年と彼の朝顔」のコメント欄で、本項執筆時点ではすべて自らのものである2つのうちの第2コメント[11月12日付]としていわば打電し、そのなかでは「[いまはそれによって]日記およびキーワードの新項を立てる意欲も湧かない」とまで述べていたからだが、ところが、そこで描写している「[前日夕刻まで天空に向かっていた蕾の数かずがひと晩で]まったく例外なく、柳の葉のようにうなだれた状態になっ」たようす[写真=撮影は摂氏7度の晴天下の米国東部時間2007年11月11日10時台]は、やはり項を新たにして報告する価値があるものと翌日(本日)、急に思われてきたのである。そのうえで、さらに同上コメント中の補遺・微修正したい文面は、「これから種子を胚胎する、植物としてはまだ続く生の時間がある」の部分であり、すなわち、「まだ続く」とその連続性を強調するのではなく別の、来年に向けた新しい生の始まりがあるのだとして、いまは一つの生の終焉を強調しておきたいのである。
そうして、いま私が想起するのは、先日読んだ「最後の一葉」[キーワード編/日記編]の中盤、肺炎を患う少女ジョンジーが発する、以下の言葉である。――「待つのは疲れたの。考えるのも。心にひっかかっているすべてのことをふっ切って、あの哀れな、くたびれた葉の一枚のように、ひらひらと落ちていきたい〔死んでしまいたい〕」(拙訳)。死にゆく(dying)人にあるとき典型的にあらわれるのかもしれぬ、そんな諦念のうちのこの一種を、私はまだ死にたくはないので共有しはしないが、前半にかぎっては共感(笑)。すなわち、たしかに疲れた――朝起きたらまずブラインドをこじ開けてその花のようすをチラとみて、写真を撮りに出て、変化を日記に記録するのも。
かくして、10月初旬の遅い最初の開花に始まり、今月初旬の最後の開花の終わりに至るまで、ちょうど一か月を花として生き、そして昨日未明のすべての蕾の「瞬間」的な一斉倒壊もて全生命を閉じた朝顔の、46歳中年男子による観察(後日リンクを一覧にする予定/笑)もまた、これで終わる(ホッ)。今年はあと、日記(*)で報告されることがあるとしても、女がこの植物棚から枯草をひきはがし、種子を取り出す話題だけであろう。
* 注記: じっさい、本項(本稿)は最初、日記欄に掲出するほうが適切かとも思ったのだが、私にとってはキーワードより日記のほうが(精神的)ウエイトが大きく、だからこそ、あちらで声高にこの話題にふれることが、すこしためらわれた(またかと思われだろう)。というわけで、日記欄(11月は休まず連続更新中である)にはまた別の些事を。
(米国東部時間12日20時37分)
- 2007/11/13登録
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