インコノイッチャン
インコのいっちゃん
もう10年近くなるだろうか、彼が忽然と姿を消してから。
鳥にも「中年太り」があるとはしらなかった。いっちゃんはセキセイインコだが、とにかく食べることが大好きで年中餌をついばんでいた。
奥方がご懐妊(笑)されてから、彼女用に栄養補給のカルシウム剤をいれてあげていたのだが、喜んで食べていたのはいっちゃんだった。
あっという間に腹が出て、ぽっこりとビール腹のようになり、周辺の羽根はばさばさとさばけ、あられもない桃色の鳥肌が見えてしまうまでになってしまった。
...なんてこったい。
そのいっちゃんをダイエットさせようと、飛行訓練を実施したが、離陸点からばさばさと落ちていくだけで飛べず。
いっちゃんは鳥かごの中段で眠るのが日課であったが、腹が出て鳥としてのバランスが崩れて以降、夜中に「どーーん!」と音を立てて寝ぼけて落ちる毎日を送っていた。
そんなに落ちるなら、最初から下で寝りゃいいものを、定位置を動くのは嫌だったらしかった。
しかし「寝落ち」は毎晩続き、奥さんや隣の文鳥から毎度ぶつくさ文句を言われていた。
いっちゃんは新橋に出没するサラリーマンのおっさんみたいなへべれけな鳥で、年中あたしにも愛をささやいて(叫んで)いた。耳元で散々歌い上げた挙句、インコとしては当たり前の求愛行為である「餌の吐き戻し」をしては、
「食べる?食べる??」
と、迫ってくる。ほんとに迷惑な男であった。
ある日、ベランダで籠に入ったまま楽しんでいたはずのいっちゃんがいなくなった。
うちのベランダは柵ではなく、コンクリが塗り固められている代物で、「飛び上がれない」いっちゃんには越えることは不可能だ。
排水溝はメッシュの蓋付きで、デブのいっちゃんには通り抜けられない。
ある意味、すっごい無防備な密室状態。
なのに彼はいなくなってしまったのだ。
飼っているインコの寿命は長くても10年くらいだろうと言われているそうだが、あたしにはあのデブでエロくて臭いいっちゃんが、今でもあのマンションのすぐ隣の部屋の方に飼われていると信じている。
そして「食べる?食べる??」と愛を叫んでいることだろう。
- 2002/07/09登録
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