『ライラの冒険 黄金の羅針盤』~The Golden Compass~
深い精神性と象徴に満ちた原作の世界観は素晴らしいけれど、この映画の監督は、魅力的すぎる物語の要素ひとつひとつ"全て"に執着しすぎて、どれを捨てる事も、どこにフォーカスすることもできず、それが結果として、作品を中途半端なものにしてしまった、というのが正直な感想。
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大人と子供の表情をちょうど半分ずつ見せる主役の女の子はとても素敵だし、ほとんど現実の風景と変わらないように見えて、不思議な雰囲気を感じさせるパラレルワールドの風景や衣装の作り込みもすごい。
特筆すべきは、人間が必ず一匹ずつ従えている、動物の姿をした守護精霊(魂の一部、とも言われる)『ダイモン』の可愛さ!
シチュエーションに応じて自在に姿を変えるダイモンと人間とのやりとりや、動き、変身、表情のキュートさは格別で、 全編通してこれだけ見てても十分楽しめそうな、細部へのこだわりが炸裂だ。
・・・なんだけれど。
見終わった感想を一言で表すと、
『 制作費250億円の、壮大な予告編.。.:*・°☆ 』
・・・正直、微妙です(^ー^;)
ただの楽しい冒険活劇、として見せるにはこの映画、少しばかり地味(良く言えば作りが少々、誠実すぎ) 。かといって、映画という枠の中で『要素の取捨選択』をすることなしに、壮大な物語の世界観をまるごと表現し尽そうとした監督の試みは どだい、無謀に過ぎる。
パンフレットを見ていたら、監督の原作への思いが綴られていた。
「原作を読んでみて、その創造性と知性に大きなショックを受けた。説得力のある物語、魅力的な登場人物、心理的哲学的奥深さ、物語が秘める謎。ー中略ー 映画を監督するということは、その作品のあらゆる要素一つ一つに全身全霊を注がないといけないが、今回この映画を監督するに当たって、私はひとかけらの迷いもなかった」
あぁ、おそらく。
監督(兼 脚本)は、魅力的すぎる物語の要素ひとつひとつ"全て"に執着しすぎて、どれを捨てる事も、どこにフォーカスすることもできず、それが結果として、作品を中途半端なものにしてしまったたんだ・・・と思った。
原作が素晴らしすぎる場合に、時々起こる不幸な出来事。本の物語世界は大体、二時間弱の映像に閉じ込めるには、少々豊かすぎるのだ。
結果 この映画は、小さな冒険こそたくさん織り込まれてはいるものの、さしたる盛り上がりもカタルシスもなく、 物語の世界観すらきちんと提示しきれないままに、 呆気なく終わるものになっちゃったのかなぁ、というのが、素直な感想です。
しかし。映画のあの "呆気なさ" の原因の一つは 主人公ライラのキャラクターのにあるのかもしれない。
ファンタジーの主人公といえば、弱虫で泣き虫でいじめられっ子、が定番だ。それが、様々な困難と冒険を乗り越え、仲間達に支えられて成長していく…というのが定石で、主人公に手枷足枷が多ければ多いほど、物語は盛り上がる。
が、ライラはまったく正反対。強く賢く、お転婆で嘘つき。どんな窮地も、自分の力で切り抜けられる。時には仲間の助けも借りるけれど、基本的に自ら決断し行動し、自ら結果を負う。
・・・そんな彼女の勇敢な姿はとても魅力的だけど、 そのせいで物語は淡々と進み、 自然とスリルに欠ける展開になってしまうのかもしれない。
とはいえ。映画こそこんな結果(!?)になってしまったけれども。
これだけ絶賛されるからには、少なくとも原作には何か特別な魅力があるに違いない。そもそも、こんなにもファンタジーに不向きなキャラクターをわざわざ作り出した原作者の意図は一体なんだったんだろう?このキャラクターを使って作者が繰り広げたかったストーリーテリングって、どんなものだったんだう?
イマイチつまんなかった映画を見終わった今、それがかえって、気になっている。
原作『ライラの冒険シリーズ』は、1996年以降、世界的な児童文学賞を総ナメにしている超ベストセラーらしい。
中でも、2007年に受賞した『カーネギー・オブ・カーネギー賞』は "この70年間で最も重要な児童書No,1を讃える文学賞" だというからそのクオリティーの高さは折り紙付きなんだろう。
BBCは、イギリス国民に過去最も愛された小説 第三位に、このファンタジーを位置づけている。
この物語の舞台は、私たちの住む世界と隣り合った、パラレルワールドだ。
その世界では 人間の魂は肉体の外にあって『ダイモン』と呼ばれる動物の姿で存在している。ダイモンと主人は非常に強い絆で結ばれて生活を共にしており、その姿は本人の性質や内面を反映して定まるとされ、鳥や猫から昆虫まで様々だ。
そして。その世界を統べているのが『教権(マジェステリアム)』と呼ばれる組織だ。教権は、政治と社会を牛耳る超国家的カルト機関であり、人の自由意志を廃絶し、世界を支配する秩序を築こうとしている。
そんな世界の中で 主人公ライラは、全く何の自覚もないままに、次々に困難と冒険を乗り越え、教権がひた隠しにする世界の真実に近づいて行く。そして世界は、『教権』と『自らの自由意思に従って生きようとする人々の対立』という構図の戦いの中へ、突き進んで行く・・・
というのが、物語の大筋。
パラレルワールド、という設定は、その架空世界を通して、私たちの住む現実世界の奇妙さをデフォルメしてみせる、という機能を持つ。
『ダイモン』と『主人(人間)』との関係は例えば、"意識と無意識" あるいは、"天使と悪魔" 的な一人の人間の中にある"二面性"や "自己認知" のシステムを具現化しているようにも見えるし、『教権』なんて現実世界で言えば・・・資本主義経済、とか新自由主義、あたりがそれに該当するのカナ? どちらも世界的カルト、みたいな面があるし、ね?
物語の中でこの後、パラレルワールドの境界は、開くのか? 開いた時、そこに何がおこるのか?『教権』が隣り合った世界の存在を隠そうとしていた理由は一体何だったのか??
…などなど、浮かんでくる疑問は尽きないのに、映画の中では何も、示唆することすらできていなくて、ちょっと欲求不満。
長々と書いた末に何ですが・・・、ごく普通の冒険活劇として素直に見れば、普通に楽しい映画だったのかも。原作の深い世界観トラップに嵌って、映画を十分に楽しめなかったのは私の方??(苦笑。
とはいえ、2/21だかには、ジャパンプレミア試写会も開かれるそうです。著名人がいっぱい呼ばれて『楽しかったです』『感動の連続!』なんて感想がCFでじゃんじゃか流されて、みんな面白い映画みたいな気になっちゃうのは、殆ど集団催眠状態かと。何が何でもNo.1ヒットにしなきゃいけない使命を背負った配給会社は必死だろうから、この映画も、普通にヒットするんだろうなぁ・・・。
日本での興行成績次第で、第二作の制作が決定する、と聞きました。
劇場一般公開は3/1から。
【ライラの冒険 黄金の羅針盤 =公式サイト=】
- 2008/02/11更新
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