ウィリアム・トレヴァー『聖母の贈り物』
短編集『聖母の贈り物』に収録されているのは,
ウィリアム・トレヴァーが過去に発表した作品の中から
訳者 栩木伸明によって選び抜かれた12の短編だ.
その内の8篇は1978年に発表された短編集
『Lovers of Their Time』から採録されている.
その8篇には,必ず一人,
ある特質を持った人物が登場する.
彼らは想像力が豊かで,
常に夢を見たりイメージの世界を膨らませたりしている.
しかし,彼らが夢に溺れたり
イメージの世界に飲み込まれたりすることは決してない.
彼らの前にある現実の世界が,
最終的には彼らの夢やイメージを打ち壊し,
想像の世界から彼らを引き戻してしまう.
聖地エルサレムに憧れていた神父は,
実際に訪れて目にしたエルサレムの光景
(銃を持つ兵士・街角の売春婦・下品な観光客)によって
夢から覚め,現実に引き戻されてしまうだろうし,
(『エルサレムに死す』)
不倫相手との理想の暮らしに憧れていた男は,
実際に始まった(その理想とは程遠い)暮らしによって,
夢から覚め,現実に引き戻されてしまうだろう.
(『イエスタデイの恋人たち』)
夢から覚めた後の喪失感,
これがウィリアム・トレヴァー独特の味.
- 2008/04/05更新
- 2008/03/31登録
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