のびアニキ(金子良)
ほんとうに久しぶりに岡本太郎美術館に行ったら、企画展が、第11回岡本太郎現代芸術賞の受賞作品展だった。
その一角に、布団を敷いて寝ている人がいた。枕元の背面の大きな壁には、街なかで撮影された、笑神経をちょっとくすぐられる映像(たとえばこういう感じ。言葉にしてもなかなか伝わらないだろうことがもどかしい)が流れている。登場人物はいつも、かの有名猫型ロボット漫画に登場する永遠のダメ・ボーイと同じ、イエローの格好をしたオトナである。客数人が布団を取り巻き、流れてくる映像にクスクス笑っている。そのうち、映像を見ていたカップルの女の子の方が枕元のベルに気付く。チーーーーン。布団からむっくりと起きあがったのは、映像の中で動いていたダメ・ボーイに扮するオトナであった。
それが彼、のびアニキ(こと、金子良:かねこ・りょう)である。
のびアニキは、今回の岡本太郎現代芸術賞でみごと特別賞を受賞。受賞作は、美術館が開館している間は、上のように会場で寝て(起こされれば客の相手をして)過ごし、閉館後に街に繰り出して映像を撮り、それを編集して、次の日にはその映像が新たに加えられた作品の下でまた寝て(起こされれば客の相手をして)過ごすというパフォーマンス「のびアニキの<岡本寝太郎現代芸術賞展>」である。つまり、寝ている彼も作品の一部であり、おそらくは、彼を起こし、彼と話をしたり、彼のサイン入りブロマイドをもらうという客の行為も、作品の一部である。
ここによれば、「のびアニキ」は、「ドジ、他者とのコミュニケーションが上手く取れない」という自分の弱点をパフォーマンス化して乗り越えようと、2004年に作家が生み出したキャラクターで、以後、このキャラクターで様々なパフォーマンスを行っているようだ。特に吹き出したのは、2006年の「カナダからの手紙 / LOVELETTER FROM CANADA」。のびアニキは、ハンディカラオケマイクを手に街に繰り出し、誰彼かまわずマイクを付きだして、「カナダからの手紙」のデュエットを求める。少し映像を見たが、「コミュニケーションが上手く取れる」どころか、ほとんどの場合、明らかに避けられ、完璧なディスコミュニケーションである。
しかし、そのディスコミュニケーションを収録した映像が、コミュニケーションを生み出す力を持つ、というのは面白いと言えば面白い。初対面の人とのコミュニケーションが得意でない私も、先述のカップルが帰り、のびアニキが再び床についた直後に、ついついベルを鳴らしていた。聞きたいことはいろいろあったが、2ヶ月間の会期中、寝るほど聞かれたであろうもろもろを聞くのはどこか申し訳なく、それでもほとんどはその種のものであろう質問を投げかけてしまっていた。そのどれもに、彼は注意深く、実直に答えてくれた。
別れ際に何と言おうか、話しながら考えていた。どうしてか、「これからも頑張って」の類のことは言うまい、という気になってしまったからだ。結局、口をついたのは「じゃあ、また。」だった。実際、彼とはまたどこかで会えるような気がする。私の心には、不思議な波紋が広がっていた。
(よく)生きるために、何かを作り出すこと、作り出さずにはいられないこと。それこそが芸術、アートなのではないか。もらったサイン入りブロマイドの、どでかい色鉛筆を持ちながらほほ笑む彼を見ていると、そう思えてきた。
- 2008/04/05更新
- 2008/04/05登録
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