『美しすぎる母』2007 ~ 近親相姦の化学
この映画は実話が元になっていると言う.
描かれるのは,大富豪ベークランド家の悲劇だ.
ベークランド家は,20世紀初頭,
レオ・ベークランドの代に財を成した.
世界初の人工樹脂「ベークライト」を発明し,
特許を取ったのだ.
ベークライトはフェノールとホルムアルデヒド,
この二つの物質を掛け合わせて作られる.
(このことは映画の中でも語られる.)
そして,この映画の中には,ベークライトの他にもう一つ,
二つのものを掛け合わせて作られたものが登場する.
それは,アントニー・ベークランドと言う人物だ.
彼はレオ・ベークランドの曾孫で,
映画の冒頭,自らを次のように形容する.
「熱い母と冷たい父,
この二つが交わって発生した水蒸気がこのぼくだ」
みたいなことを彼は言う.
ベークライトを発明した曽祖父を持つアントニーは,
自身の存在をもまた,
化学反応によってたとえようとするのだった.
(男女の交わりとその結果を化学反応によってたとえるのは,
この映画全般を通して見られる傾向なのだが,
そのことは重要な意味を持っている.)
アントニー・ベークランド,
彼が「美しすぎる母」を殺した犯人なのだ.
父親が不倫をして家を出たために,
彼は母親と妙な関係になってしまい,
結果,母を殺してしまう.
息子と母親,この二人の関係を化学反応にたとえるなら,
その性的な「掛け合わせ」が余りにも危険であることは,
誰の目にも明らかだ.
息子による母殺し,これによって,
ベークランド家は完全に崩壊する.
時は奇しくも1970年代の初頭.
その時代にはまた,ベークランド家の他にもう一つ,
終わりを迎えたものがあった.
ベークライトの製造が,
その時代にはもはや行われなくなっていたのである.
つまり母殺しの事件が起こった70年代の初頭は
ベークランド家の終わりとベークライト時代の終わりとが
偶然にも同時に起こった時代なのだった.
ベークライトの製造が中止された理由の一つは,
それが余りにも危険だったからだ.
フェノールとホルムアルデヒドを掛け合わせると,
高温,高圧な状況が不可避となり,
一つ間違えば爆発が起こる.
その意味で,ベークライトのこの二つの成分の関係は,
ベークランド家の二人の男女の関係と実によく似ている.
アントニーとその母も,
掛け合わせると危険な状態になると言う意味で,
フェノールとホルムアルデヒドの組み合わせと変わらない.
果たしてこの二人の男女の掛け合わせの結果は,
やはり「爆発」に似た悲劇的な最後となってしまったのだった.
- 2008/06/07更新
- 2008/05/18登録
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