現実の1984年 アントニイバージェス
プロレタリアなどというものは存在しない。種々さまざまな程度の社会的意識、宗教的意識、知的意識をもつさまざまな個々人しか存在しない。そういう人びとをマルクス主義的な観点から捉えるのは、植民地で総督が自分の専用車の中から群衆を見くだすのと同じくらい失敬な、相手の品位を低めることなのだ。わたしたちには、罪ほろぼしのために自分の素性や環境にふさましくない結婚契約をしたり、さては、ウィガン棧橋で酒びたりの一日を悶々と送ったりすることによって、血筋や教育や訛や体臭などの違いを乗り越えなくてはならない義務はない。だが、階級や人種といった抽象概念を不寛容や恐怖や憎悪のスローガンに変えてはならぬという義務がある。悲しいかな、わたしたち人間は誰も彼もがだいたい同じであることを思い出すべく務めなければならぬのだ。
オーウェルは「1984年」の中で、存在しえないはずのギャップを設定し、そのギャップの中に、現実には起こりえない暴君政治を築いたのだ。それは空中楼閣なのだ。わたしたちはそれに魅せられたあまり、不信という分解力を行使してそれを音もなく崩壊させることはしない。現実の1984年は、決してあのようなものになりっこないのだ。
アントニイ・バージェス「1985年」
- 2008/06/28更新
- 2008/06/28登録
- 1017クリック
「現実の1984年 アントニイバージェス」を検索
このキーワードを共有する
このキーワードはコレクションに選ばれています(1)
-
メイン
つながりキーワード (6)
恐慌論 (岩波文庫)
- (ネコまいける)
少し前のことになるが、書店の文庫コーナーを眺めている時、思わず足を止めた。 そして本書を手に取り、ページの中身に眼を通す。 間違いない。やはり、宇野孝蔵の『恐慌論』だ...
今、豚は太っていない。 動物農場
- (LittleLoro)
今、豚は太っていない。 「今の世の中だと思えばいいんですよ、 この映画が言っているのは。」 アニメーション映画監督 宮崎 駿 半世紀前につくられた「動...
ワグ・ザ・ドッグ~ウワサの真相~
- (ロドリゲス通信)
スキャンダルもみ消しのために架空の戦争をもみ消し屋(広告屋?)とハリウッドのプロデューサーがでっちあげるという話。もみ消し屋がデニーロで、プロデューサーがダスティンホフ...
バロウズとバージェス
- (ロドリゲス通信)
アンソニー・バージェスに会って、パブで一緒によく飲んだ。「時計じかけのオレンジ」を読んで非常に感動して、序文か何かを書いたことがあった。それがつきあいのきっかけになった...
時計じかけのオレンジの21章
- (ロドリゲス通信)
だが、兄弟、彼らが何がいったい「不良」の「原因」かなんて考えこんでるのは、おれにいわせりゃ、まったくのお笑いだ。「善良」の原因さえよくわかってないくせに、その反対のこと...
妻の死 ジョージオーウェル
- (ロドリゲス通信)
オーウェルにとって妻のアイリーンの死は口にするのも耐えられないほどの痛手であった。2、3の親しい友人を除いては妻の死をくちにすることもめったになく、話すにしてもずいぶん素...







文章読本 中村真一郎
時計じかけのオレンジ...
妻の死 ジョージオー...
バロウズとバージェス


