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現実の1984年 アントニイバージェス

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 プロレタリアなどというものは存在しない。種々さまざまな程度の社会的意識、宗教的意識、知的意識をもつさまざまな個々人しか存在しない。そういう人びとをマルクス主義的な観点から捉えるのは、植民地で総督が自分の専用車の中から群衆を見くだすのと同じくらい失敬な、相手の品位を低めることなのだ。わたしたちには、罪ほろぼしのために自分の素性や環境にふさましくない結婚契約をしたり、さては、ウィガン棧橋で酒びたりの一日を悶々と送ったりすることによって、血筋や教育や訛や体臭などの違いを乗り越えなくてはならない義務はない。だが、階級や人種といった抽象概念を不寛容や恐怖や憎悪のスローガンに変えてはならぬという義務がある。悲しいかな、わたしたち人間は誰も彼もがだいたい同じであることを思い出すべく務めなければならぬのだ。
 オーウェルは「1984年」の中で、存在しえないはずのギャップを設定し、そのギャップの中に、現実には起こりえない暴君政治を築いたのだ。それは空中楼閣なのだ。わたしたちはそれに魅せられたあまり、不信という分解力を行使してそれを音もなく崩壊させることはしない。現実の1984年は、決してあのようなものになりっこないのだ。

アントニイ・バージェス「1985年」

現実の1984年 アントニイバージェス

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