クリストファー・ダン トロピカーリア ブラジルオンガクヲヘンカクシタブンカムーヴメント
クリストファー・ダン『トロピカーリア ― ブラジル音楽を変革した文化ムーヴメント』
「トロピカーリアはヴェルヴェット・アンダーグラウンドの実験性とビーチ・ボーイズのスター性とフランク・ザッパの諧謔性とボブ・ディランの饒舌とラットルズの笑いを兼ね備えたような存在だった。」
鮮やかな黄色(カナリア色)の帯の背表紙面に載っている細川周平氏のこの言葉(巻末の解説からの引用)が、この本のテーマをとてもわかりやすく一言で言い表しています。
この『トロピカーリア』はアメリカ人の研究家、クリストファー・ダンの "BRUTALITY GARDEN: Toropicalia and the Emergence of Brazilian Counterculture" の翻訳書で、帯の表紙面に載っている「蛮行の庭園」という言葉はこの原題から採られたもの。「トロピカーリア」とか「トロピカリズモ」と呼ばれる 60 年代のブラジルのムーヴメントについて、そこに至る背景や、その後の影響や動きまでを広くカバーした研究書です。
こう言われてもピンときにくいかもしれないですが、その中心的な役割を担ったのはカエターノ・ヴェローゾやジルベルト・ジル、トン・ゼーといったアーティストだと言われればブラジル音楽好きなら俄然興味が湧いてくるんじゃないでしょうか。
「トロピカリズモ」* は、とてもピースでポジティヴだった 50 年代〜 60 年代中期という幸せな時代を経て(ボサ・ノヴァが生まれたのがこの時代です)、世界の他の国と同様に能天気ではいられなくなった時代のブラジルで生み出された、音楽を中心としたカラフルでラディカルで前衛的で乱暴なトータル・カウンターカルチャー・ムーヴメント。言ってみれば「アメリカがウッドストックの時代だった頃のブラジル」です。イギリスやアメリカで(そして日本でも)そうであるように、この時代のムーヴメントはさまざまなカタチでその後の文化に大きな影響を与えているので、現在のブラジルを知る上でも面白いし、考え方や表現など、いろんなインスピレーションに富んでいます。
その語感に魅力もあって前からすごく興味はあったんですが、ブラジル音楽の本の中などで「ある時代の現象」としてサラッと触れられてることはあっても、それだけをキチンとまとめて論じている資料は今までにほとんどなくて(少なくとも日本語の資料では)、なかなか実態がつかめなかったんで、この本が出版されたのはとても嬉しかったし、なかなか知ることのできなかったことをたくさん知ることができた、とても貴重な資料です。ブラジルにはもっとあるのかもしれませんが、英語の本だったことで翻訳されやすかった側面もあるだろうし、しかも第 3 者的な視点で書かれてる点も重要なポイントかも知れません。
個人的なクライマックスは、「禁ずることを禁ずる(E proibido proibir)」という言葉とカエターノ・ヴェローゾの曲に関するエピソード。この言葉はボクの座右の銘なので(笑)。
ディスク紹介やジャンルの枠で語られることの多いブラジル音楽ですが、そういう枠では語りきれない(故に、語られることが少ない)、ブラジルの奥深さや面白さの一端を垣間みることができる読み応え十分な一冊です。
* 本書では「トロピカリズモ」という呼び方ではなく「トロピカーリア」という呼び方で基本的には統一していて、その理由は序章に書かれています。その理由は十分合点がいくものですが、個人的には「トロピカリズモ」という語感がとても気に入っているのでこちらを使います。「トロピカリズモ(tropicalismo)」は「トロピカル(tropical)」と「主義(英語の -ism に該当するポルトガル語の -ismo)」が合体した言葉で、そのまんま「熱帯主義」「トロピカル主義」みたいな意味です。「トロピカル / 熱帯」って単語と「主義」って単語のミスマッチ感というか、組み合わせの意外性が個人的にとてもツボなのです。「XXXX主義」なんてたいがいはロクなもんじゃないですが、「トロピカル主義」はなんか良さそうだな、と。
- 商品名: トロピカーリア―ブラジル音楽を変革した文化ムーヴメント
- 価格: ¥3,675
- 著者: クリストファー ダン
- 出版社: 音楽之友社
- 発売日: 2005-11-01
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- 2008/07/08更新
- 2008/07/08登録
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