Gustav Mahler, Symphony No.9 D-major
マーラー「交響曲第9番ニ長調」
1929年、ベルリンを訪れたArturo Toscanini(ニューヨーク・フィルハーモニック音楽監督)を囲み、ベルリンの音楽界で活躍していた4人の音楽家(ベルリン市立歌劇場音楽監督Bruno Walter、ベルリン国立歌劇場音楽監督Erich Kleiber、ベルリンクロール歌劇場指揮者Otto Klemperer、そしてベルリンフィルハーモニー音楽監督Wilhelm Furtwangler)がおさまっている一枚の写真。一つの都市にこれほどの偉大なマエストロたちが4人も集っていたことは史上稀なことかもしれない。
この偉大な4人のマエストロはヨーロッパに吹き荒れたファシズムの暴風のためにやがて全員ドイツをあとにする(Toscaniniは1922年母国イタリアにおいてMussolini政権が誕生した後に母国を離れ活動の拠点をアメリカへと移していた)。Walterは1933年のHitler政権樹立後にドイツから逃れオーストリアのウィーン国立歌劇場監督に就任したが5年後の1938年3月オーストリアがドイツに併合されたために同国をもあとにし、最終的にアメリカへ向かう。Kleiberは1934年の「ヒンデミット事件」に際してFurtwanglerを擁護、ナチスへの抗議の意をベルリン国立歌劇場音楽監督の辞任と国外への出国という形で示した。KlempererはWalterと同様ドイツにHitler政権が樹立されると共にドイツを離れる。最後までドイツに残ったFurtwanglerも第2次世界大戦末期の1945年1月スイスへと亡命する…。
前口上が長くなってしまった…本題へと筆を進めていこう。これはWalterがオーストリアを離れる2ヶ月前の1938年1月16日ウィーンのムジークフェラインにおいて行われた演奏会を録音したものである。
Walterは病床のMahlerにかわりこの曲の初演の際の指揮をまかされたように19世紀後半からMahlerの音楽の熱心な紹介者であった。Mahlerの音楽の20世紀後半における紹介者の代表的存在であるLeonard Bernsteinの指揮による演奏が粘着的に思われるきらいがある(とはいえいつしかそれが病みつきになってしまうのだが)のとは対照的にWalterによる演奏からは過度の装飾を省き音楽の本質に直接ぐっと迫っていく迫力が強く感じさせられる。
特にこの演奏においてはWalterの指揮の下にオーケストラは、その先に何があるのかを意に介さぬかのように最終楽章に向けひたすらに突き進んでいく。最終楽章へ向かっていく高揚感という点では他のいかなる名演の追随も許さないと感じられるのだ。そして弦楽器による斉奏から始まる、安息と救済への願い、別離の表明を示している最終楽章は、幾たびか巻き起こる感情の渦の隆起と終息を経てやがて音楽はただ静かに閉じられていく。
録音年が1938年であり、また演奏会の録音であるにもかかわらずその音質は決して悪くない。充分に鑑賞可能な音質といって良いだろう。
Walterは回顧録"Thema und Variationen"(邦訳名『主題と変奏』)で「世界史的な活動はどれほど重要な人間によるものでも、やはり時間に隷属している。それに比べて、創造的精神の作品はいつまでも消えないのである。ナポレオンは死んだ--だがベートーヴェンは生きている。」(邦訳のp.10より)との言葉を残している。筆者はこの演奏を聴いたとき同じ様な感慨を受けた。過酷な政治状況下でありながら演奏会の録音が行われ、それが戦火の中で喪失されず今日もなお聴くことができることに感謝。
<2002年12月6日追記)
EMI CLASSICSからながく発売されてきた本演奏のCDは、EMI CLASSICS(http://www.emiclassics.com/)のカタログから消えている。現在この演奏をおさめたCDはNAXOSなどから入手可能である。
- 人名: Bruno Walter
- Gustav Mahler
- 団体名: Wiener Philharmoniker
- 2002/12/06更新
- 2002/08/05登録
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