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田宮虎彦 (タミヤトラヒコ)

小説家。歴史小説や私小説的な作品で父子の相克や人間の絶望感を描いた。代表作は「足摺岬」。足摺岬といえば有名な観光地だが、華厳の滝や東尋坊と同じ種類の“名所”としても知られている。その決意で足摺岬へやって来た大学生が、同宿した遍路の老人や薬売りの商人と心を通わせ、思いとどまるというのが大まかなあらすじ。これだけなら温かい話だが、付け足したように宿の子供たちの悲惨なその後が描かれる。最後の場面で“特攻くずれ”になった少年のわめき散らす言葉が印象的だ。

田宮虎彦が描く人物はみんな絵に描いたように不幸だ。例えば「落城」では戊辰戦争で徳川幕府に殉じて全滅する小藩の武士たち。終には自ら城に火を放ち、女も子供も集団で自刃する。「絵本」では新聞配達をする中学生。彼の兄は上海事変で捕虜になって銃殺され、父はそれを悲しんで病死し、母は教師の資格を持っていながら捕虜の親だという理由で職に就けない。そして中学生も追いはぎの濡れ衣を着せられて拷問を受け、絶望的なやり方で反抗の意思表示をする。

これらの不幸は本人が自分で選び取ったような破滅であることが多い。心の中で服従しなかったが故に現実の世界で自滅していく、そういう人間への共感が読み取れる。ある作品の主人公に関して作者はこんな風に解説している。《実生活では情なくも妥協しながら、人間の心の奥の奥で、妥協しないものを持つのも人間の本心である。だから、千人に一人か万人に一人、うらみ抜く人間がいるのだ。世間はそうした人を変人といってかたづけてしまう。だが、考えてみて、実は、その変人こそ人間の本心にもっとも誠実であるということが出来るのだ。もっとつきつめて、人としてもっとも純粋であるということが出来る。そうした人は実生活では、みじめな敗残者になるほかない。だが、実生活を犠牲にして、世間の人たちからおとしめられ、あざけられながらも、まもりぬいた人間の本心の故に、みじめな敗残者の生涯が、もっとも純粋な人間の生き方を示すことになるのである。》

小説以外で有名な作品もある。彼は1956年に妻を癌で亡くし、その翌年に妻との往復書簡集を「愛のかたみ」と題して発表した。これは感動を呼んでベストセラーになった。ところが、ある評論家に“変態的”と批判されたことに大きなショックを受け、すぐにこれを絶版にしてしまった。そしてそれ以後、作品をあまり発表しなくなった。

田宮虎彦

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