10・12~一人で王者を倒した男~
日本プロ野球史上最高の助っ人外国人は誰であろうか。この話題はプロ野球ファンの間で長い間議論され続けてきた。そして結論はどの球団のファンかによって変わってくる。阪神ファンならランディ=バース以外あり得ないだろう。巨人ファンならクロマティだろう。横浜ファンならボビー=ローズ、阪急・オリックスファンならブーマー。だがこれが近鉄になると難しくなる。候補が二人居るからだ。一人は昨年日本プロ野球タイ記録の1シーズン55本塁打を打ったタフィ=ローズ。そしてもう一人が一人で王者を倒した男・ラルフ=ブライアントだ。
昨年の10・19の記憶と、昭和天皇崩御の記憶も新しい1989年10月12日、場所は西武球場。近鉄バファローズ対西武ライオンズのダブルヘッダー25回戦、26回戦。オリックスも含めたペナント争いの行方は、まさにこの試合にかかっていた。西武にとればこのダブルヘッダーを連勝すれば一気に優勝もありうる状況。逆に近鉄に取ればこのダブルヘッダーを落とすことは優勝争いからの脱落を意味する状況で、プレイボールが告げられた。
西武の先発はオリエンタルエキスプレス・郭泰源。対する近鉄の先発は高柳で始まったこの試合は、高柳の乱調により四回の時点で0-4と4点のビハインドを喫することになる。それに対しブライアントの第二打席、まずは挨拶とばかりに豪快なソロホームランを叩き込む。だが再び西武が1点を加え、変わらず4点のビハインドになった時点で全国の近鉄ファンは一瞬優勝をあきらめ、逆に西武ファンは優勝はほぼもらったと思ったであろう。だがドラマはここから始まる。6回表、ノーアウトランナーフルベースで迎えたブライアントの第三打席。ブライアントはいともたやすく二打席連続になる、満塁アーチをかっ飛ばす。誰もが驚く同点劇だった。
だが話はまだ終わらない。5-5の同点で迎えたブライアントの第四打席。ここで森監督はブライアントにシーズン中ほとんど打たれていなかった渡辺久信をマウンドに送る。渡辺の速球が、変化球がズバズバと決まりあっという間にカウント2-1。誰の目に見ても渡辺の調子がいいのは明らかだった。だが、そこから投げられた4球目。ここしかない、といわんばかりのアウトロー一杯に決まるストレート。この球をブライアントのバットは捕らえてしまった。ボールはまるでピンポン玉の様に軽々と舞い上がり、スタンドに飛び込む。「まさか・・・」打たれることなどありえないはずのボールをホームランされた渡辺の愕然とした表情が未だに瞼に焼き付いている。結局ブライアントはこの試合近鉄が得た6点全てを自らのホームランで叩き出し、西武をねじ伏せたのだ。
次の試合でも2-2の同点から勝ち越しホームランを放ち、近鉄はダブルヘッダーに連勝する。そしてそのまま近鉄はペナントを獲得する。まさにブライアントは一人で王者西武を倒したのであった。
ブライアントは三振の多いバッターだった。「大型扇風機」などと揶揄されたこともあった。だが、こんな芸当が出来るバッターがこれから先現れるだろうか。ブライアントが最強の外人かどうかはわからない。数字だけならもっと上の選手などいくらでもいる。だが、一人で王者を倒した男の事を僕は忘れることが出来ない。
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