イエス・ウィ・キャン
''YES WE CAN''
ブラック・アイド・ピーズ(BLACK EYED PEAS)のウィル・アイ・アム(will.i.am)がバラク・オバマの大統領選挙をサポートするために作った曲。しかも、ただの応援ソングじゃなくて、今年 1 月 8 日のニュー・ハンプシャーでのオバマの演説があまりに素晴らしかったので、それにインスパイアされて作った(その心境をブログで語っています)ということで、その演説をそのまま引用してリリックにするカタチで曲に仕上げてます。リリースはスーパー・チューズデイの真っ只中の 2 月 2 日で、Dipdive というサイト(このために開設した?)と YouTube でビデオとして公開されました。
コモンやハービー・ハンコックやカリーム・アブドゥル・ジャバーやジョン・レジェンドやスカーレット・ヨハンソンやケイト・ウォルシュなどなど、書ききれないほど多くの豪華ゲストが参加していて、ビデオの監督はボブ・ディランの息子のジェシー・ディランが務めてます(ちなみに、バラク・オバマ陣営はこのプロダクションには直接関与はしていないとのこと)。
● "YES WE CAN" by will.i.am (Video) (Dipdive / YouTube)
ここまでが簡単な概要ってことになりますが、このビデオは単にカッコイイ曲というだけでも、大統領選挙が盛り上がってることの象徴ってことだけでもなく、いろいろなことを示唆している気がするので、ちょっとまとめてみます。
・プロダクション:
過去にも、ヒップホップにはマーティン・ルーサー・キング Jr. やマルコム X の演説(の一部)をサンプリングしたトラックはありましたが、こういうカタチで演説を長く引用して、しかもそれだけでリリックとして成立させて、オバマ本人の声にオーバーダブするカタチで仕上げるって手法はすごく斬新。コール & レスポンスの使い方も効果的だし、主役である「言葉」のジャマをせず、効果的に耳に届けるシンプルでメロウなトラックも、やり過ぎてなくてとてもクール。上記のブログでウィル・アイ・アム本人も語ってるように、彼自身は過去 2 回の大統領選挙の結果に相当失望してて、そんな中で聞いたこの演説に衝撃を受けて、1 週間後には曲のアイデアを固めて、その後の 2 日間でプロダクションを完成させたらしいんですが、初期衝動をすぐにカタチにしたことが、小手先の技に溺れることなくシンプルなカタチに収まって、結果的に成功したのかな、なんて思います。やっぱり、クリエイティヴなアイデアとかひらめきは、熱いうちにカタチにしたほうがいいと思うので。個人的には、ブラック・アイド・ピーズもウィル・アイ・アムも、ポップ過ぎてそれほど好きなわけじゃなかったけど(とは言っても、なんだかんだ言って彼が参加してる曲はけっこう持ってて、ゲストでチラッと出てくる分にはいいアクセントとして効いてたりもするから、別にキライでもないんだけど)、この曲に関しては、彼の持つポップ感がいい面に発揮されてて、このクリエイティヴには脱帽。ちょっと見直しました。プロデューサーとしてのセンスの良さが光ってます。
・オバマの演説:
この曲の素材になったオバマの伝説的な 1 月 8 日のニュー・ハンプシャーでの演説は YouTube で観ることができ(前半・後半)、この曲に使われてる部分は。後半の最後の部分(3:54 辺りから)。聞いてもらえればわかる通り、とてもシンプルで、とてもパワフルで、とてもエモーショナル。難しい言葉や表現は使わずに、理路整然としていながら、同時にグッとくる。よくケネディを引き合いに出されたりもするけど、個人的にはスティーヴ・ジョブス並みの、現代屈指の演説 / プレゼンテーション・マスターだと思います。
・政治・選挙とインターネット:
今回の大統領選挙は、YouTube 以降の初めての大統領選挙、つまり、いわゆる、YouTube(と YouTube に代表される最近のいろんなインターネット的な動き)が大統領選挙にどんな影響を及ぼすかって意味でもすごく興味深い選挙です。オフィシャル・サイトで小口のドネーションを募って選挙資金を確保したオバマの選挙運営自体もそうだし、YouTube もオフィシャルに YouChoose '08 というページをつくってとてもポジティヴな使い方をしてたりもするし。日本ではインターネットと言うとまだまだ 2ch 的なモノのことを意味しがちですが、そうではなく、社会性と公共性の高いインターネットの使い方、そして、その影響力の大きさがどの程度なのかを測れるまたとない機会としても注目したいと思います。
リリース直後にレビューは書いていたんですが、それから半年以上経った今ってタイミングでわざわざキーワードとして登録しようと思ったのは、記録として残しときたいと思っただけではなく、キチンと捉えておくいいタイミングなのかな、と思ったからです。リリース時はヒラリー・クリントンと民主党内で候補者の座を争っていたわけですが、今では晴れて正式に大統領候補に選ばれ、ランニング・メイトも決まり、いよいよこれからが本当の(そして、おそらく想像以上に困難な)勝負ってタイミングだし、対する共和党は何でもアリのなりふり構わぬ見苦しさを露呈してる(ランニング・メイトの選び方とか、その象徴的な出来事ですね)わけで、これからどんどん共和党得意の泥試合になってくることも予想される中で理想で押し切るのは簡単ではないではなく、それでも理想を語ることで闘い切れるのか、とても興味があるのです。この "YES WE CAN" はそのシンボル的なものなのかなぁ、と。
偶然か必然か、同じ時期に日本では、甚だ低いレベルで国の最高指導者の地位が玩ばれて(弄ばれて?)たりもしてるわけですが、リリース時にはこの曲も日本のメディアでも多少取り上げられたりはしてたけど、「有名アーティストが応援ソングをつくった(それくらいオバマ旋風が強い)」程度の扱い、それこそ小泉純一郎と YOSHIKI とか、ワイドショーでやたらと取り上げられてたオバマ・ガールと同じような扱いだったわけで、発信する側も、媒体として伝える側も、受け取る側も、随分とレベルが違うなぁと思わずにはいられないです。隣の芝は…とは言うけど、演説といい、ネットの使い方といい、クリエイティヴのレベルといい、なんでこうも違うものか、と。まぁ、すべてがいいわけではないですが。もちろん。ヒドイところもいっぱいある。逆に、ウィル・アイ・アム自身は上記のブログの中で「ヒロシマ以降の日本の 65 年を見習おう(不可能なことなんてない)」みたいなことも言ってたりするし。まぁ、お互いにちゃんと見て、ちゃんと考え、学ぶべきところは学んでいきたいもんです。
ちなみに、"YES WE CAN" の続編とも言うべき "WE ARE THE ONES" という曲も 2 月 28 日にリリースされていて、その他にも、YouTube に参加アーティストのコメントをアップしたりしてます。また、8 月 28 日のデンヴァーでの民主党の全国大会ではウィル・アイ・アムとジョン・レジェンドが "YES WE CAN" をライヴで披露しました。
- 2008/09/06更新
- 2008/09/06登録
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