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カムイデン

カムイ伝

 そもそもこの作品を買おうと思ったのは、夏目房之介の手塚評論に刺激を受けたからだ。
 当時貸本マンガから発展した劇画ブームは、手塚のスタッフにまで及び、何十冊も劇画を買っていくスタッフを見て手塚自身がノイローゼ(自称)になったという。

 大学生だった夏目にとっては、すでに手塚的な丸っこいマンガは陳腐化してきており、スタイリッシュで描線の鋭い劇画がカッコいいものになっていた。
 手塚もこれを取り込もうとするが、結局マッチョやらハッタリやらが苦手な人なので、ムリがあったように思える。(わたくし的には「ブラック・ジャック」でようやく手塚流に劇画を自分のものにしたと思っている)

---*注 以下ネタバレあり---
 さて、アンチ手塚としての白戸三平。しかも「カムイ伝」(第一部)
 劇画劇画というが、思ったよりも、手塚的なマンガ手法が多いのに驚いた。意外に「汗」が多い。
 巻を追うごとに描線が鋭く粗くなっていくが、これは物語の進行とシンクロしていくのだ。
 描き手の変容と見るか、ひとつの技法と見るか。第二部が未読なのでなんとも言えない。

 マルクス主義に基づいた左翼思想丸出しの作品だけど、革命と一揆とでは少しムリがあるように思えた。
 そう言えばこの国では、一揆は数あれど、体制を根底から覆していくような革命は起こっていない。(一番最近では60年安保闘争が"学生一揆"だったように思える。IT革命については・・・笑うしかない・・・権力の側の人が「革命」って・・・)

 それはともかく(学生運動後の、政治の空気を吸っていないぼくたちの世代は"ともかく"としか言いようがない・・・)、物語としての圧倒的なダイナミクスが素晴らしい。
 登場人物の誰もが魅力的。セクシーでカッコいい。
 絶望から個人主義へと脱却した右近。お坊ちゃん故の端正さが魅力になりアダとなる竜之進。世の中金だと言い切り、あらゆる謀策を張り巡らすマキャベリスト七兵衛。カムイの師匠赤目は抜け忍(もしかしたらカムイ伝の登場人物で最強)となるが、生来の人の良さがまたいい。この物語の本当の意味での主人公とも言える正助は「大人のヒーロー」として憧れる。わたくし的には右近が好きかな。絶望するエリートが一皮むけたらきっとこうなる!

 そしてカムイ。
 非人から忍者へ、そして赤目と同じく抜け忍となるが、彼が忍者として生きることの矛盾の中で成長していく過程は、青年期のぼくたちのそれそのものだ。と言えば大げさだが、彼のセリフはまったくカッコいい。
 黄昏時に空を仰ぎ「今夜は月がめっぽう赤い・・・」とつぶやく。その直後、四方から手裏剣が飛んで来る。彼がいたはずの岩には手裏剣がキンキンと当たって弾ける。月の赤さにみとれる情緒を持っているが、悲しいことに彼は優秀な忍者なのだ。

 「カムイ伝」は終始、農民VS武士という図式に基づいて描かれているが、一方で徳川家康が卑賤の出身であるという秘密を握った日置藩と幕府との絡みもまた物語をおもしろくしている。
 ところでこれは、手塚治虫の後期作品「アドルフに告ぐ」の内容と酷使している。「アドルフ~」ではヒトラーの先祖がユダヤ人であったという秘密を巡ったストーリーでもある。手塚が「カムイ伝」を読んだかどうかは分からないが、これはちょっとちょっといじわるな見方かな。偉大過ぎるのにコンプレックスのカタマリのような人だから。そ~ゆ~手塚センセイ愛してゆ(ピノコ風)。

 ともあれ、文庫全15巻は未だに('65~'71!!)充分読み応えのある必読マンガです。

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