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モットフカク、モットタノシク。

もっと深く、もっと楽しく。

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或る人に言わせると、こんな狭い日本で自然破壊の限りを尽くすゴルフ場など必要ない。
・・そうである。

ゴルフを知らない人に言わせると、高い金を取られて芝生の上を散歩するだけなんて、なんてゴルファーは莫迦なんだろう。
・・だそうである。

あんなものは断じてスポーツではない!
・・と言う人もいる。

所詮金持ちの道楽さ!
・・と舌打ちする人もいる。

このような考えを持つ人々は決して少なくなく、総じて真面目で仕事熱心で、何事にも前向きに取り組む若者に多い。

確かに日本では国税庁も認める贅沢な「遊び」で、そう認めたからこそ異常に高い税金を用具やプレー代に賦課して平然としているのだが、これが本家のスコットランドに行ってみると少しばかり事情が違ってくる。

「ゴルフはアメリカに渡ってスコア至上主義のスポーツになり、更に日本に渡って金持ちのレジャーになった。伝統文化を重んじる日本人が何故そのような破廉恥な所業に及んだのか、ワシは理解に苦しむよ」

或る時スコットランドの名門クラブで一緒になった老貴族は、メンバーとそのゲストだけが立ち入りを許されるBARの片隅で、はるか遠く日本から来た若造に向って寂しそうに呟いた。

スコットランドの貴族にとって、ゴルフは単なるスポーツでもなければ況やレジャーでもない。我々が数世紀にも渡って先祖から代々受け継いできたゴルフの精神は、そんな軟(やわ)なものではない。

彼は話を続けた。

そもそも貴族とは所有する荘園と領民を守る為に、いざ戦争となれば真っ先駆けて敵と闘わねばならぬ。自分の命を犠牲に民を守る覚悟がなければ、兵も民もついてはこない。

そこで貴族は幼い頃から身体を鍛え、勉学に勤しみ、武術に長けることが求められたのだが、誰よりも早く走り、誰よりも上手に馬に乗り、弓と剣の優れた使い手になるだけでは不十分で、夜間の行軍に必要な天文学や地理学や生物学にも通じていなければならなかった。

乗馬やハンティングやフェンシングなら解りますが、それとゴルフとどんな関係があるんですか?

若者が訊ねると、老貴族は若者の胸を指先で鋭く突いた。

幾ら学問と武術に秀でていても、それだけでは駄目なのだ。もっとも貴族に求められる資質があるとすれば、それは「リーダーシップ」なんだよ。だが、これは一種の才能のようなもので、誰彼に等しく備わっているものではない。

老貴族は悪戯っぽく微笑んでスコッチを口に運んだ。

そこで我々は、後を継ぐべき子供達にゴルフをさせた。雨が降っても風が吹いても、子供達をゴルフコースに向わせた。広いコースには審判もいない。スコアを誤魔化そうと思えば簡単だし、知らないうちに相手のボールをヒースの茂みに蹴り込む事だってできる。
相手に勝つことだけを考えれば、どんな卑怯な真似をしたって誰にも見つかリっこない。雨がイヤなら止めてもいいのだ。

だが、貴族の資質に欠けるものは、ここで脱落する。
リーダーシップに劣るものは何かがあれば必ず言訳をするし、卑怯な手を使うし、スコアを誤魔化すし、結果を他人の所為にしたり自然の所為にする。領主たる親は子供達の中からそうやって跡継ぎを選ぶのだ。将来の領主として資質なき者を篩いにかけて排除する。
だから、遊びだと思ったら大間違いなんだよ。

故にゴルフに求められる精神性とは、常に自己に厳しく、何事にも平常心を失わず、次善を求めて最善を尽くす『リーダーシップ』そのものなのだ。
わかるかね?

その根底に流れるゴルフ・マインドを理解せずして、本当のゴルフなんて理解できるはずがない。賞金稼ぎになり下がったプロゴルファーに、アマチュアが学ぶべき哲学などあろうはずがない。
ゴルフはあくまで自分を鍛える為の手段なのだから。

老貴族はそう言って、日本人の若者の肩を叩いた。

それとも、もう今の日本には真のサムライはいないのか?
君もゴルファーの一人なら、自己鍛錬の場としてこれほど厳しい「踏み絵」を踏まされるスポーツはないと心得てくれ。
それがわからぬ奴に、ゴルフをする資格はないんだから・・。

日本に戻った若者は以来ゴルフバッグを独り肩に背負い、雨の日も風の日も、休みとなれば近所の河川敷に脚を運んだ。

彼は一年でシングルになったが、未だ日本の「ゴルフクラブ」には何処にも所属していない。

それでいいと思う。 

私が敬愛して止まなかった中部銀次郎氏は、昨年十二月食道ガンで亡くなられた。59歳だった。

氏の好きだった言葉は「FESTINA・LENTE」。
ラテン語で「悠々として急げ」の意味である。

もっと深く、もっと楽しく。

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涙腺子
詳細情報
  • 発売元: 日本文化出版
  • 人名: 中部銀次郎著
  • 2002/09/09更新
  • 2002/09/09登録
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