赤川 次郎
日の丸あげて
ここ数年、社会派の作品を発表しつづけている赤川次郎さんに『日の丸あげて──当節怪談事情』という短編集がある。表題作は文字通り、国歌国旗法を批判した内容だ。それを、一水会の最高顧問・鈴木邦男さんが高く評価している。一見、不思議なとり合わせだ。
自身のブログで、ていねいに紹介している。ちょっと読んでみたくなる。ペーストしておこう。
「元刑事が娘と共に団地に住んでいた。元刑事だけあって、曲がったことは大嫌いだ。それに愛国者だ。最近の人間は、政治に関心がないし、愛国心がない。と、いつも怒っている。テレビを見ては、ブツブツと言っている。祝祭日には日の丸を掲げるべきなのに、掲げない家がある。日教組教育のせいだ。嘆かわしい。
まぁ、普通なら、こうして嘆き、怒り、それで終わりだ。あとは、産経新聞に投書したり、『正論』や『諸君』を読んで、『そうだ!そうだ!』と叫ぶくらいだ。ところが、この元刑事は、黙っていられない。自らの信念を実行に移す。団地の中で、日の丸を掲げない家を回って、『日本人として日の丸を掲げるのは当然でしょう』『日の丸、君が代は国旗、国歌として法制化されたんですよ』と、穏やかに言って回った。戦時中や戦前ならば、町内会の人が来て、『何だ!非国民!』と怒鳴りつけたんだろう。今は民主主義の時代だから、そんなことは出来ない。だから元刑事も、穏やかに注意する」
そういえば、私の幼いころは祝日を「旗日」と呼んで、どの家も玄関先に日の丸を掲げていたものだった。カブスカウト→ボーイスカウト時代には、集会の前に必ず日の丸を掲揚した。その正式な(?)たたみ方はもちろん、中央の赤円が天地の5分の3であることも知っている。
「穏やかに言って回っても、元刑事の迫力があるし、団地の人々も、次第に、日の丸をあげるようになる。ズラリと日の丸が出ていると、実に気持ちがいい。元刑事も、満足だ。ところが、どうしても言うことをきかない家がある。きっと、左翼だろう。こいつは国賊だ。
何度も何度も足を運び、日の丸の大切さ、愛国心の大切さを訴える。しかし、そのAさんの家はガンとして聞かない。祝祭日の日、団地の一棟全体が日の丸をあげている。しかし、たった一軒、出てない家がある。これじゃ、統一性がとれない。ジグソーパズルの最後のピースが空いている。そんな感じだ。何とも気持ちが悪い。調和がとれん。
そのうち、団地の中に、奇妙な噂が出回る。『Aさんは痴漢だ』という噂だ。だって、現職の刑事が団地に来て、Aさんのことを聞き回っているんだ。電車の中で、痴漢があり、Aさんが容疑者らしい。あるいは、駅のエスカレーターで手鏡で女子高生のスカートの中を見たらしい…と。変質者だ…と」
講堂や体育館、教室の日の丸・君が代は、日本代表チームが戦う競技場の日の丸・君が代とは全く別のものであることは言うまでもない。後者は “強制” されていない。心ある教育者の皆さんには、気の重い季節がまたやって来る。
「Aさんは、いたたまれなくなる。勿論、元刑事が後輩に頼んでやらせたことだ。動機は『愛国的』だ。いくらいっても分からんから、団地から〈害虫〉を駆除しようとしたのだ。Aさんは、皆の冷たい視線に耐えられず、団地から出てゆくだろう。そうすると、一棟全体が、日の丸をあげる。きれいだ。美しい。これぞ、日本の国民だ。そういう、『純粋』な、愛国的な動機だった。
ところが、噂に悩んだAさんは、自殺してしまう。元刑事が殺したわけではないが、結果的には彼が殺したのだ。『愛国殺人』だ。奇妙なことに、主のいないAさんのところに日の丸がたつ。団地の一棟全体が、きれいに日の丸がはためく。メデタシ、メダタシだ。
ところが今度は、愛国者の元刑事が殺される。それも、日の丸に包まれて。(実は、死体に白い布をかけられただけだが、血がひろがって、日の丸に見えたんだ)。さて、犯人は?あとは、各自、読んでみなせえ」
鈴木さんは「高校はミッションスクールだったから、日の丸、君が代を強制されなかった。だから、こんな立派な愛国者になった。強制されたら、反抗して、左翼になってたよ」とも書いている。何も考えずに教育委員会通達に従う教師たちの酷薄さと比べて、何と思いやりのあることか。
ウヨク、サヨクなどすでに意味がない。じっくりと考えたか、何も考えていないか──ここでも、“意識の格差” が問題なのだろうと思う。
- 商品名: 日の丸あげて―当節怪談事情 (小学館文庫)
- 価格: ¥520
- 著者: 赤川 次郎
- 出版社: 小学館
- 発売日: 2003-08
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- 2009/02/27更新
- 2009/02/27登録
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