フロマージュ・コマガタ
乳製品開発の達人が会社を定年後に造った、とても味わいあるちいさなチーズ工房Fermier Fromages Komagata。
きっかけは館山にあるオーベルジュ「Opa」の夕食メニューで供された、アミューズの中の1品「あしたば入りのカマンベール」。ほんのひとかけらだったけど、ひすい色の熟成味が忘れられなくて、スタッフに工房の住所を教えてもらった。翌朝チェックアウト後にその工房に電話し、(無理を承知で)訪問したい旨伝える。国道を走ること90分。
地図では「いすみ鉄道」西大原が最寄り駅とあるけれど、初めて訪れる人だとおそらくこのチーズ工房にたどり着けないだろう。のどかな里山にどこまでも続く田んぼ道の果てにある一軒家だから。おまけに途中で目印になる看板などない。
「いすみ市役所」あたりで迷っていたら、ご親切にオーナーが車で迎えに来てくれた。その車の後に続いて、田園風景をさらに進む。最後は田んぼのあぜ道から脱輪しないようにソロソロ運転してようやく到着。慎ましい看板がようやく目に入る。里山に抱かれた1600坪の傾斜地に母屋とチーズ工房がある。車を降りた主と一緒に、人なつこい大きな犬が迎えてくれた。
チーズ工房の冷蔵庫には、さまざまなチーズが収まっていた。そのうちのいくつかを試食させてもらう。塩分を控えたフレッシュ&芳醇な味わいだ。「酪農王国」千葉県の中から、特に新鮮で良質な牛乳を産する農家を探し、ひとつひとつ手作りでじっくり熟成させたチーズ。「サラダチーズ」「ブルーチーズ」「ニンジン入りカマンベール」「炭入りカマンベール」どれも逸品。試食しながら、牛の飼料や牛乳の殺菌温度によって、同じブルーチーズでもまったく異なる舌触りと味わいになることも教わった。
一番驚いたのは、岩盤をくりぬいた「ほこら」のような冷蔵保存室でゆっくりと熟成する姿を見た時だ。チーズの名は特につけられていない。ラベルもない。でも、チーズ好きならば、その表面の様子から味を想像できるだろう。強烈な香りと濃厚な味わいを好きな人には、たまらない表情をたたえたチーズだ。眺めているうちに、フランスの田舎の市場でしか味わえなさそうな強烈な発酵味が舌の脇からよみがえる。不謹慎なたとえだけど、どこか遠くで「くさや」や「古い酒粕」に通じるあの独特の風味。
いろいろな種類のチーズを2個ずつ購入した。ひとつひとつが食品というよりも慈しんで育てられた生き物のよう。なのに、ひとつ500~600円と手頃な値段。FAX注文もできるという。
自宅でフロマージュ・コマガタを味わうたびに、外房の田園風景とあの柔和な髭の笑顔を思い出す。遊び心を忘れずに、日本の風土に合うチーズ作りを真摯に模索し続ける駒形雅明さん、本当にありがとうございました。
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