『正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官』 / "Crossing over"
あまりに退屈で、頭が痛くなる駄作、超駄作。何ら意味のない空撮シーンを間に挟んで、緊張感を欠くエピソードがだらだらと続くこの作品は一体何なのだろう。無意味な演技や情景が満載。観客を馬鹿にしているとしか思えない。
お涙ちょうだい的な「法に翻弄される人々」の泣いてみせるシーンがやたらに長く、過剰に演技させて感情移入を強いる。そのからくりが見えた瞬間「お涙ちょうだい」は、たちまち退屈に変化するというものだ。手前勝手な「良心」の押し売りは勘弁してほしい。
エピソードに出てくる人物はみな、人物造形が浅薄なステロタイプにすぎない。主役マックス・ブローガン(ハリソン・フォード)移民局I.C.E. (U.S. Immigration and Customs Enforcement) 「特別」捜査官の造形は、ありそうな気にさせるが、実際は到底ありえない人物像。大掛かりなガサ入れ直前に、個人的な連絡が入ると、仕事を忘れて物思いに耽る。これがベテラン捜査官というのだから恐れ入る。
弁護士のデニス(アシュレイ・ジャッド)も入管に言いなりで、それなりに抗弁はするものの、結局は闘わない弁護士ときた。不法滞在 (Illegal immigration) を問われた依頼者に同情することしかできない呆れた無能弁護士なのだ。同情する暇があったら仕事をしろ、と言いたい。
ユダヤ教の「デタラメ祈祷」演技でグリーンカードを取得する青年だとか、強盗殺人事件の共犯少年が見逃され、犯行の翌日に米国帰化の宣誓を済ませ無邪気に喜ぶシーンなどは噴飯もの。その一方で、何の罪も無いイラン人少女が強制送還されてしまう、観客を泣かせる愁嘆場も。にもかかわらずこれらについて、批判的視点は一切出てこず、考察しようともしない。観客に丸投げするだけだ。
「殺人事件をいくつか挿入し話を膨らませ起伏をつけてみました」とでもいうようなストーリーや構成はあまりに陳腐。本作のテーマ「行政権力の非情と酷薄」を十分に描かず、クライマックスで殺人を前面に押し出す主客転倒は見苦しい。
スクリーンに登場する個々のエピソードは、みなそれぞれ重い問題を含む。だが、それらの問題点を掘り下げず、意味ありげにエピソードを単につなぎ、羅列しただけ。その結果、恣意的かつ主観的作意にもとづく荒唐無稽な映画となってしまった。従ってリアリティも損なわれている。
なぜそんなつまらない代物になってしまったのかは明らかだ。偽善の「良心」を押し売りしてみせた批判精神を欠く脚本家と映画監督に責任がある。では日本の映画批評はどう捉えたか――、
激映画批評『 正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官 』|前田有一氏
「日本人がいま見ておくべき『先輩』の姿(65点)」
巧映画批評『 正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官 』|渡まち子氏
「移民で構成された国ゆえの苦悩が見えるかのよう(70点)」
感映画批評『 正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官 』|山口拓朗氏
「緻密な脚本とムダのない描写を評価したい(75点)」
見映画批評『 正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官 』|福本次郎氏
「自由の国なのに権利を制限されて、息を潜めるように生きている、不法入国・滞在者という新たな被差別階級の実態をリアルに再現する。対する米国人も、救いの手を差し伸べる者、弱みに付け込む者、同情を示す者と多種多様だ(70点)」
楽映画批評『 正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官 』|町田敦夫氏
「不法移民の問題に一石を投じる良質の社会派ドラマ(70点)」
シネマの週末・トピックス:正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官(毎日新聞 2009年9月25日 東京夕刊)
「永住権取得のために不正を強いられる南アフリカ出身の女優の卵、犯罪に手を染める韓国系の少年らの姿を通し、移民の実情を浮き上がらせる社会派ドラマだ」
移民問題 困難な現実(読売新聞 - 近藤孝 2009年9月18日)
「本作は、困難な現実に真摯に向き合った秀作だ」
「ウェイン・クラマー監督はサスペンスの要素も交え、エピソードを的確にまとめている」
【シネマ通信簿】正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官(産経新聞 2009.9.18 07:24)
「人種のるつぼロサンゼルスを舞台に、複数の移民の人間ドラマが並行して描かれ、絡み合う。社会派ドラマとして見応えがあり、脚本も手がけたウェイン・クラマー監督の手腕が光る」
批判精神を欠く映画を「観た」(?)批判精神のない批評家たちは、このように評価した。その内容は、映画の背景・設定から類推した主観的願望にすぎない。背景事情の解説は映画批評と呼べない。すなわちいずれも、映画批評ではないのである。これら「批評」が出回ったため、インターネットのブログ上に「重い作品だった」「深く考えされられた」「見応えがあった」など、分かったような気になった感想が、あちこちに増殖した。出入国管理の行政にまつわる問題は、こんな安易な羅列的考察で解決するようなヤワな問題ではなかろうに。
この作品を観ただけで出入国管理の問題が少しでも分かったと思った人は、偽善的「良心」に引っかかったに過ぎない。
Crossing Over (2009) (MRQE: Movie Review Query Engine)
Crossing Over (2009) (IMDb: The Internet Movie Database)
『正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官』(公式サイト)
正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官(ウィキペディア)
Crossing Over (The Weinstein Company)
Crossing Over (Wikipedia)
正義のゆくえ Crossing Over(アムネスティ・インターナショナル日本)
正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官(シネマトゥデイ)
正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官 (cinemacafe.net)
正義のゆくえ/I.C.E.特別捜査官 (eiga.com)
正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官 (movienet)
正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官(シネマスクランブル)
正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官(Yahoo!映画)
ICE(Immigration and Customs Enforcement)という組織(アメリカ移民法ニュース、2003年05月18日)
- 2009/10/23更新
- 2009/10/05登録
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「正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官」:この題名で見る人と見ない人、どちらが多いでしょう
- ひねくれ者と呼んでくれ | Tracked: 09.10.24 9:18 am
監督:ウェイン・クラマー 出演:ハリソン・フォード、レイ・リオッタほか 米国2009年 邦題とハリソン・フォード主演ということで、最初から内容を誤解してしまいそ
更新情報 2009/10/12 「正義のゆくえ」
- silver glass | Tracked: 09.10.23 5:40 pm
CINEMA......「正義のゆくえ」の感想をアップ。 ACTOR......
「正義のゆくえ I.C.E. 特別捜査官」
- It's a wonderful cinema | Tracked: 09.10.23 5:36 pm
2008年/アメリカ 監督/ウェイン・クラマー 出演/ハリソン・フォード レイ・リオッタ アシュレイ・ジャッド 移民をテーマにした作品って結...
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