いわし雲に寄せて‐大女優の追想として
鰯雲(成瀬巳喜男):淡島千景
昨日、 2月16日(木)に逝去された女優の故
淡島千景さん(訃報・略歴)に、1960年代初頭の関西の田舎のマセた小学生は、恋をしてしまったのでした(汗)。何十年を経てしても、その感覚は消えません。
『夫婦善哉』(豊田四郎:1955)のラスト・シーン。森繁久弥の‘柳吉っつぁん’に「おばはん、頼りにしてまっせ」と乞われ、およそそんな呼称には似つかわしくない上目遣いの可愛いまなざしで森繁を見返す彼女が、健気でした。ダメ男を諦念も交えつつ、しかしあえかな希望を行く末に託す‘蝶子はん’を演じる淡島さん。
『にごりえ』(原作=樋口一葉/今井正:1953)のお力を演じる彼女の涼やかなまなざしには、『夫婦…』とは真逆の「女の意地」が漲っていました。でも、その意地は宮口精二の情人(いろ)と破滅的な道行を決行する暗い情念の焔に彩られもします。この二重性が、淡島さんを、ポール・シュレーダー言うところの「聖なる映画」のファム・ファタール(宿命の女)として、フレーム内に屹立させていました。
そして、成瀬巳喜男監督の『鰯雲』(1958)。
ここでの淡島さんは作品冒頭で、成瀬印とも言える「お金」の現実原則、すなわち彼女が生きる戦後農村社会の経済図式を、しっかりと後に恋人となる新聞記者・木村功に‘講義’して聞かせます。
まるで「聖なる映画」から還俗したような淡島さん演じる現代的な女性の知性は同時に、滅び行く中村鴈治郎の兄の価値観を叱りつつも、甥(小林圭樹)にその崩壊が、時代ゆえの悲劇であると決然と擁護します。そんな人間としての優しさは、彼女をして、寡婦となった日々に訪れる恋に誠実に向き合おうとさせます。
成瀬メロドラマの秀作でもある『鰯雲』の何度目かを観つつ、在りし日の大女優を偲んでいます。
* * * *
いま10月20日(火)、4・58PM。東京の空は快晴。パソコン机横の開け放した窓の斜め上に、きれいないわし雲が!
秋のしるしで、季語。はじめて気づいたんです。俗世間にまみれてると、空なんてろくに見やしないし‐‐‐‐。ダメだなあ!
というワケで、昨日(19日)、『晩春』(BS2放送)を見てキーワードに書いた連想から、成瀬巳喜男監督の『鰯雲』を思いだしちゃいました。
いわし雲じたいは、ラスト近くに出てくる。淡島千景の未亡人の農村女性(場所は、たしか神奈川の厚木)が、恋人の新聞記者の木村功との仲をふっ切って、また一人になって、せっせと耕運機で田んぼを耕し続ける、そのうえに、いわし雲が高く広がってる、そんな情景だったはずです。
成瀬って、ホントいいんですよ。むかし、彼の『おかあさん』(1953)をある所で見せたことがある。この作品はぜったい、今の家庭の話に跳ね返ってくるものがあるんです。『鰯雲』もそう! 女のひとがどう生きていったらいいのか、ちゃんと成瀬は示してくれるんですから。
これもむかし、フランスに留学してた友人が、パリのシネマテークで「成瀬巳喜男」特集に入った。友人いわく、「『鰯雲』観てたら、涙がでてきてこまったよ」。
わかるナ、パリで成瀬を観たら、私だって泣きますよ。
・・・・2012・2月17日更新。冒頭より加筆し、改稿。不世出の大女優の追憶に・・・・。
*写真=『鰯雲』より。
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- 監督: 豊田四郎
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- 2012/02/17更新
- 2009/10/20登録
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コメント (2)
2009/11/05
forget-me-not 以前NHKBSで、「おかあさん」を見て、なんていい映画なんだろう、と感激しました。成瀬巳喜男も小津安二郎の映画も大好きで、テレビでやっていると、何度も見ているのにまた見てしまいます。原節子さん美しいし、、。「晩春」の方も読ませていただきました。能の知識もないので分りませんでしたが、小津監督はすごいですね。
anoano コメントいただき、ありがとうございます。たぶん私も成瀬監督の1本と言われたら、「おかあさん」と答えるでしょう。最後には長女ひとりしか家に残らない。ものすごくほんとは暗いお話なのに、そこに希望が見える。母がこどもにさりげなく自立を促がしているからなんですね。最後に香川京子が田中絹代を見つめ、「大好きなおかあさん」と言うシーン、(---)あぁ、涙腺がーーー。
ほんとのこと言うと、小津監督の作品より成瀬作品のほうが好きなんですけどネ--。
今後とも、よろしくお願い申しあげます。anoano
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