レベル・セブン
レベル・セブン
フロムさんのキーワード『渚にて』http://www.kanshin.com/index.php3?...のコメントの盛り上がりに触発され登録。
一触即発の関係にある2大国。最後まで固有名詞は出てこないけど米国とソ連(当時)であるのは明らかです。ちなみに作者はポーランドに生まれ、のちにイスラエルに移民したユダヤ人ですが、物語の中では「我が国」「敵国」「中立諸国」という表現しかされません。全世界を巻き添えにする核戦争とその後の世界が、2大国の片側の国の、最も安全堅固な最下層シェルターの一士官「僕」の日記という形で淡々と綴られます。
そもそもの話。
池澤さんが『楽しい終末』の中で、『渚にて』をとりあげておられました。それでずっと『渚にて』を捜していたんですが、一昨年やっと発見しました。「復刊フェア」の帯がついていたので、たまたまその頃再刷されたのでしょう。そして読了し巻末の解説を読むと、同じ核戦争をテーマにしたこの『レベル・セブン』についての記述がありました(池澤さんもこの作品を挙げていたかどうかは『楽しい終末』が埋もれていて調べられません)。いもづる式にこの作品を捜すことになったのですが、何しろ廃れた文庫なので諦めかけていました。
年に1度の健康診断で健保のあるお茶の水に出向いた際、ダメもとで覗いた文庫河村さんで見つけました。私にとって、定価より高い値のついている本を買うのは初めてのことでした。20余年の歳月を経て勿論変色して埃っぽい匂いもしましたが、1,700円の価値はありました。多分お薦めしても入手するのは困難だと思われますので、ストーリーを少し詳しく書かせていただきます。
物語は、「僕」が軍に召集されてレベル7に勤務することになる3月21日から、つけ続けていた日記が途切れる(息絶える)10月12日までの、約7か月間がすべて。舞台は7層ある地下壕の最下層。原子力発電設備と備蓄による完全な自給自足を保証され、たとえ核戦争による放射能汚染で500年地上に戻れなくても子孫が生き存えることが可能な場所です。
6月9日に最終戦争が起こり、「僕」は命令のままにボタンを押します。威力の弱いミサイルのボタンから、順に強力なミサイルまで。範囲も、限定的なものから敵国の広範囲な地域を侵すものまで。押すボタンがなくなった時、世界地図は、真っ黒な染みに覆われます。
いつまで続くとも知れない、ただ生き延びるためだけの生活が始まります。シェルターの準備のない中立諸国からの交信がまず途絶え、自国ですら、地表に近いレベル1から順に、放射能に冒され沈黙していきます。そしてレベル6までも突然沈黙し、元敵国の生き残りと言葉の上だけの平和条約を締結し、モグラ同士気休めの交信をするしかない状況です。しかしその元敵国もとうとう沈黙、最後に残った人類であるレベル7の「僕」も、皆の沈黙の理由を知ることになります。
レベル7を維持している原子炉のメンテナンス中に事故が起こり、シェルターが放射能で汚染され全員が被爆、元恋人も友人も死に、「僕」もついに意識が遠のいて...
この作品の魅力は、主人公の「僕」の心理の変化によるところが大きいと思います。冒頭、「僕」は突然地上勤務から転属し、たいした説明も受けずに不可逆の順路を進んでレベル7に到着し、「みなさんは完全に隔離されました」とあっさり告げられるわけです。地上の家族には軍から自分の死亡通知が送られるので安心してとか言われて(笑)。でも「僕」をはじめ、わりと皆スンナリ受け入れちゃう。つまり、最初からそういう人選を軍がしているんです。身寄りがないとか、家族への情がウスいとか、地上への執着がない、あと腐れがない、引きこもりとはちょっと違うけど、対人関係にクールな人たち。
それでも、運命の6月9日、「僕」の同僚の1人は「最後のボタン」を押すのを拒否します。そして良心の呵責に耐えかね、精神を病んで自殺してしまいます。「僕」には最初、死を選んだ彼の気持ちが理解できない。でもそんな「僕」の心境に変化が起きるんです。
レベル3のある夫婦が、死を承知で地上に戻ると言い出し、実行します。そして廃虚と化した地上のもようをレポートします。彼らのことを「勇敢でおろかな夫婦」と呼んでいた「僕」に、次第に彼らへの同情と憐れみ、それに自身の行為への後悔の念が生まれ、「自分の心の中の、隠れた、忘れていた、腐っていた、人間性のボタンが押された」と初めて自覚するのです。
「なぜ、この人間性のボタンを押すのがこんなにむずかしく、人殺しのボタンを押すのはあんなにやさしいのだろう。」近代型兵器の問題点.....労力は最小限×破壊力は最大限=手応えなき大量殺戮.....を作者は、何と1959年に指摘していたんですね。
この作品が現代の多くの人に読まれるチャンスがないのは本当に残念です。是非復刊して欲しいのですが、その際には出来れば訳を改めてもらいたいです。訳された当時の軍事用語の語彙では限界があったのかもしれませんが、現在であれば「ミサイル」にあたるものが作品中では「ロケット」「ミサイル」を厳密な意図なく混同して書かれている感があるのです。全体に訳が硬いことに加え、「僕」の肩書きが「押しボタン士官」という陳腐きわまりないもので、私は軍事ヲタでも何でもありませんが読んでいてどうにも白けてしまいます(汗)。何とか版権の問題をクリアして下さい>版元関係者さま。
余談:この本の巻末にサンリオSF文庫の作品の広告が載っています。その中に、池澤さんが訳を担当した作品(『頭の中の裸足』ブライアン・W ・オールディス/作)があるので目下捜索中、情報求む!
- 価格: 定価320円(ただし、古本で1,700円で昨年Get(汗))
- 年(代): 1959年作、1978年文庫版初版発行
- メーカー: サンリオSF文庫(現存しません)
- 人名: モルデカイ・ロシュワルト/作 小野寺健/訳
- 2002/11/20更新
- 2002/10/29登録
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コメント (11)
最新コメント5件
2002/11/20
フロム いくつかの点でこの小説は、今までによんだものの中一番よく核戦争の実態を描いてる。今後数年にして、この著者が描いたようなおどろくべき事件が実際に次々とおこる可能性はあるのだ」ライナス・ポーリング博士(化学博士、ノーベル賞受賞)http://www.web-sanin.co.jp/orig/news/...
フロム 〔訳者〕小野寺健、1955年東京大学英文科卒業、1957年同大学院終了、茨城大学講師、横浜国立大学講師。訳書 ニューピー〔薔薇と革命〕どうなんでしょ?一緒ですか?
臭うっていうより、色が年季入ってますね
フロム ええと、個人的に思うこと。①まず描かれたのが冷戦真っ只中と言う事②作者は実は専門の小説家ではない事③再刊されてると言う事以上から思うに、やっぱり冷戦って凄かったんですね、そしてこの作品が当時与えた影響と言うのも計り知れない気がします。まあ実際ソ連もアメリカもプロパガンダは凄かったのですが、命中精度の高いICBM近年になるまで出来なかったみたいです。それに搭載核弾頭の量もそれほど馬鹿でかい物は詰めない。っとよく考えれば変な時代ですよね当時って。凄いファンタジーの世界に生きていたと思います。ある意味
applemint 著者の情報を訂正しました。誤ポーランド人→正ユダヤ人。
2002/12/06
kazooya 読みました。淡々とした調子が逆に、進行している事の恐しさを極立たせている感じがします。読んでいる間、僕の頭の中ではL. Armstrongの「What a wonderful world」が流れていました。
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