ゆめみるみずのおうこく
夢見る水の王国 上 (カドカワ銀のさじシリーズ)
詩的な、とても繊細で美しいイメージで綴られた断章が万華鏡に映る映像のように現れては消えていきます。それはモザイク画の色とりどりの片々のようにちりばめられて、海辺の町に暮らす老人と少女をめぐる豊かでゆったりとした時の移ろいを、まるで神話のように描き出します。脈絡の無いようなとぎれとぎれのイメージが渦巻くように明滅する永遠の平穏、しかしモザイク画の最後の一片が嵌め込まれた時、一転して襲いかかる悲劇を契機に、平穏な日々の中で少女の中に蓄積されていた矛盾が一気に表出され物語は夢の世界へと変転、光と影の二つの探求の旅が始まることになります。
この斬新で美しい導入部(上巻の半分位を費やすのですが)はとても素晴らしいです。読んでいて、いつまでもずっとこの世界に浸っていたい、そういう思いが沸々と湧いてきました。
その後の物語は、自身の分身である影を追い、影と一つになることで全き自分をひいては全き世界を取り戻すという、テーマとしてはそう目新しいものではありません(例えばル・グウィンの「影との戦い」)し、そのテーマの掘りさげ方にも主人公がまだ幼い少女ということもあってそれほどの深みはありません。また下巻で説き明かされる夢の世界の創世神話は少々陳腐で(創世神話とは常にそういうものかもしれませんが)興醒めだし、神話的人物の来歴にも私は何だかしっくりしないものを感じました。しかし水の循環が命の循環と重なる箱庭的な夢の世界で、旅する光と影の少女たちの周りに次々と溢れだす詩的イメージの美しさはやはり秀逸、M・エンデの「果てしない物語」やG・マクドナルドの「ファンタステス」「黄金の鍵」等の描き出す豊穣なイメージの世界との共通性を感じました。
ともかくも、膨大な詩的イメージが凝縮されたこの美しい物語に出会えたことを感謝したいと思います。(特に斬新な導入部に私は魅了されました。)
- 商品名: 夢見る水の王国 上 (カドカワ銀のさじシリーズ)
- 価格: ¥1,890
- 著者: 寮 美千子
- 出版社: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2009-05-29
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- 2010/02/14更新
- 2010/02/14登録
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