ヒョウソク
秉燭
電灯のデの字もない古、人家にゆれていた火のあかり。
「秉燭(ひょうそく)」とは、燈盞(とうさん=油皿)よりも油溜の容積を上げ長時間灯せるよう考案された灯火具。
夜咄の茶事に欠かせない短檠(灯りの茶道具)には、雀瓦と呼ばれる秉燭が用いられることをご存知の方もおいででしょう。
茶碗や壷型、急須型、ロウソク型など、形さまざまですが、いずれも手のひらサイズです。
画像の秉燭は「たんころ」と呼ばれるもののひとつで、油溜の中央にある突起の穴へ、油を吸わせた灯芯(多くはイグサの髄)をくぐらして立て、先端に点火します。
径60mm、高45mm。仏壇とかに御飯供えるときに使う器あたりと思っていただくと、いくらかご見当の足しになりましょうか。
この品、鎌倉は雪ノ下の古道具屋「櫂」にて見そめました。
江戸中後期(おそらく幕末前)のものだそうです。
受け皿のみ、かつて箱根・宮の下にてものした大正期の別品を間に合わせ。 内側に段の付いた対の皿で受けるのが本来ですが、値札にビビり、とりあえず今回は上ものだけもとめたので。
じき、仏具屋あたりからワンコインでおつりがくる灯明皿でも取り寄せ、収まりよくして差し上げる所存。その折には画像もあらためましょう。
さいわいにも、店主ご好意で長灯芯1本お頒けいただいたおかげさま、ご覧のとおり連れ帰って早々の点灯式と相成りました。
己が手で初めてともす油灯りを、片膝抱いてしみじみ眺む。
点すにも、灯り保つも始末にも、まことに気遣わしい照明具。 木造家屋の暮らしと火のかかわりを思いながら、仄明かりにつきあう半時の穏やかなりしは、なんかいい脳波も出ちゃってそうな気がします。
「たんころ」の語源は、たんころりん。
もっとポテっとした初期型ひょうそくの横顔が瓢箪似だったところから、ひょうたんころりん→たんころりん→たんころ、と転じたもようです。
たんころりん♪と呼ぶには些か気のひける、高杯(たかつき)様フォルムの当品、浅い油溜につき、あまり長くはもちません。
注ぎ足し注ぎ足し、宵っぱり。
燃料は、菜種油。
植物油がまだ生産の細かった江戸初期には、下々には容易にとどかぬ高級品で、庶民風情は臭いの我慢しながら魚油を使ってしのぐがせいぜい。やがて普及するにつれ、闇夜のよすがは行き渡り、点す灯火具のほうもバリエーションゆたかになってったとのことです。
ただしこのたびの点灯にあたっては、往時へ沿うこと生憎かないませんでした。ウチに菜種油は無かったのです。同じ植物由来ならエゴマ(シソ)油、どうせなら取っときの美味しい白胡麻油を使ったげようかと思いましたが、とっても美味しいので燃料には惜しく、あげく始末に困っていたエ●ナを活用さすことに。なので画像はエ●ナのともしびです(苦笑)
調べたところ、お伊勢さんや東大寺へ納める御灯明油を扱って35年の油商「太田油脂」が、油皿と掻立(かきたて=灯芯押え)に灯芯を揃えた「和灯」なるお手軽セットを企画、各所にて販売の由。 “お好みのアロマオイルを垂らして香りを…” とかなんかいうご提案に頭掻きつつも、おいそれとは手に入らぬ灯芯欲しさに購入寸前、茶道具屋の片隅で眠る長灯芯函の掘り起こしに成功。(この「灯芯」および「掻立」については別記予定)
ゆらぐ焔のもと、往時の語らい沈黙如何に。
器の記憶する幾多の夜へ思い馳せ火を甦らし影眺むれば、なんでもない普段の日が色を直します。
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コメント (4)
2010/03/19
スミツツキ 特保な灯りというわけですね(笑) アロマオイルでなくとも油ごとに香りは楽しめそうな気がします。 気をつけていなければならないほうが木と紙の家では安心だったのでしょうね。 闇を払わない灯りは夢へも容易に誘い込まれそうですが。要注意(苦笑)
2010/03/22
ハヲ >>スミツツキさん、正確には特保失効中な灯りということに(苦笑) グレープシードオイルなんかの緑色なのを注してキレーだなーとか遊ぶのもありなんじゃないかと思ったり。いずれにせよ火の用心。「気をつけていなければならないほうが…」とは、木と紙の家につうじてらっしゃる方ならではのご達見ですね! 「闇を払わない灯り」ああ、うっとりです。 この次には、もうちょっと引き気味に、闇との境目あたりへポジションおいて眺めすごそうかと。あーハイ、夢との境目にも用心します(笑)
ハヲ >>コレクション「ほのお ほたほた ゆれる」に選んでくだすったタマコさん。当方PC機能上、伝言を送信できないので、この場からお呼びかけ失礼もうします。 すてきなコレクションへ仲間入りさしていただき、光栄にぞんじます。 ありがとうございました。
ハヲ >>コミュニティ「とどく、ことば。」にお選びくだすったのは、代表の御方でしょうか、この場よりの御礼お赦しください。 このたびはなんだか表彰をいただいた気がして、恥ずかしいやら恐縮です。 またご清覧供する機にめぐまれますように。 ありがとうございました。
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