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ハンナ・アーレント『暴力について』みすず書房(2000)

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1969-71年という当時の社会情勢を色濃く反映した作品ながら、その先見性は21世紀の情勢にたいして非常に示唆に富んでいます。

■政治における嘘―― 国防総省秘密報告書についての省察
■市民的不服従
■暴力について
■政治と革命についての考察―― 一つの註釈
の4つの章からなっています。

「政治における嘘」では、ベトナム戦争当時に出された「国防総省秘密報告書」、通称「ペンタゴン・ペーパーズ」おける虚偽報告や隠蔽の事実などをめぐり、そこから、なぜアメリカ合衆国が諜報機関の正確な報告を退けて、結果的敗戦へと駆り立てたのか?を明らかにしていきます。アーレントは政治(政府)がそれ自身の力学のなかで、私たちが考えるような権力や利益、世界への影響力ではなく、それ自身のイメージ――この場合は「世界の最強国」という威信自体が目的となっていったことを暴き出しています。また当時のアメリカ合衆国にたいする帝国主義的意図――領土や国益でもなくただ世界を支配するという欲望――といった批判についても、即時撤退を進言した唯一の国務次官の「その資源を見当違いの場所にある下水道に流し込んでいる」という言葉を引用しながら否定しています。当時の国民が徐々に抱き始めた「おえら方の頭がおかしくなっている」という感想は、あながち間違ってはなかったようです。

当時の最先端の思考法である、ゲーム理論やドミノ理論などをまとった超エリートたちによってなされた――いくらの時間と資金、兵力と犠牲をかければ、どのくらいの確率でどれほどの成果が得られるか、周辺諸国においてどのような影響と反応があらわれるか、という数学的な決断が、現実的な関心を欠いたまま推し進められました。それら理論の固有の前提である国性や地域性の排除は、ついに戦時下のなか「敵そのものを気にしてはならない」というテーゼにまで到達したといえます。

アーレントはこう書いています。「戦争を継続してきたのは、領土獲得のためでも経済的利得のためでもなく友好国を助けたり約束を守るためでもさらさらなく、力(パワー)のイメージとは区別された力の現実のためですらないとしたら、どうしてかれらは勝利などという現実(リアル)なものに関心をもちえたのだろうか」。

とても彼女の言葉は示唆に富んでいますね。

ハンナ・アーレント『暴力について』みすず書房(2000)

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