名映画監督、その秘密に迫るじゅんらんたるかげえ
絢爛たる影絵‐小津安二郎‐・高橋治著
こんなに面白い映画監督論、滅多にありませんよ。ていうか、もうコレ大袈裟ですが、一個の人間論。でもね、叙述のスタイルはあくまで読み物風だから肩がこらない。以前、読んだときに興味を引いた箇所に、ものすごい数のPost itが、ぺたぺた貼り付けてあります。
直木賞作家・高橋治は1953(昭和28)年、小津安二郎・『東京物語』(You Tube)撮影時の助監督だった。チーフ助監督・今村昌平の下に就け、との松竹大船撮影所からの社命で、この名作の現場に臨むのです。
入社したての生意気の塊のような映画青年は、すでに名声ゆるぎない小津の現場にまず、違和感を覚えた。だから背広と革靴の姿で現場に入る。そして、トラックとシーン・ナンバーを書き込んだカチンコ(ボード)を、撮影・厚田雄春のミッチェル・カメラのまえに差し出すのはいいが、ボードをサッと引くときに勢いあまって、足で灰皿を蹴飛ばしてしまう。緊張と静寂そのものの『東京物語』撮影現場に、カーンという音が・・・。NG.小津が直々、もの静かな声で言う、「高橋、靴を脱げ!」と。
こんな冒頭も鮮やかに、すでにスタイルを確立した名・映画監督・小津をめぐる人間関係の光と闇、高橋を含め、「松竹・大船」に台頭しつつあった「松竹ヌーヴェルバーグ」の若き監督たちの、小津評価などが語られます。高橋ほか、吉田喜重、大島渚、篠田正浩らは、小津の「大船」調に反発を感じつつも、その映画的完成度の呪縛の下にもある。いかに自らの映画を、そこから解放するか?物語は、最盛期を過ぎた撮影所システムの姿を活写します。そして小津自らのこころの闇をも、です。
生涯、独身を貫き、高い見識を持ち、誰しもがそれを認めつつ、そこにはどこか人の入り込めない秘密の部分がある。それは何故なのか、撮影現場での原節子と小津とのやりとりを垣間見つつ、その曰くいい難い関係なども・・・。生意気な新米助監督なのに、著者に目をかけてくれ、演出の秘密を小津が教えてくれる箇所、などワクワクします。あまり巧くない高橋豊子をおだてつつ、実は、その演技の最中(上記You Tube・4分54秒からのシーン)、フィルムを抜いていた、とか。末息子役の大阪志郎が「きちんと泣いていない」からと、大阪に何度も同じ演技をさせ、疲れ果てた彼の顔を撮って「OK」を出す、とか・・・。
『東京物語』が好きな人のみならず、芸術家とはどのような存在のか、知るには格好の一冊です。
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