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珍説万歳

雑誌「ユリイカ」(青土社)'87年5月号「特集・江戸川乱歩」に全集未収録作品として「ホームズの情人」というどこぞの雑誌(多分「宝石」あたりだと思うのだけれど)に書かれた短いエッセイが掲載されている。

内容は要するに生涯独身を通し女性には何も関心を持たなかったとされるシャーロック・ホームズには実は情婦がいたというホームズマニア、いわゆるシャーロキアンのある学説(?)の紹介である。
これを唱えたのは戦前に登場した米国の探偵作家レックス・スタウトで、その情婦というのが、他でもないホームズが長年共同生活を続けた友人、ワトソン医師だというのだ。

スタウトはホームズ全集の何千頁のあらゆる箇所から引用し、ワトソンが実は女性であり、ホームズの愛人であったことを証明する。
ちょっと挙げてみれば「ホームズ物語の語り部であるワトソンが60篇の伝記の中で、ホームズの私生活に関して詳細に語っているに関わらず、寝室の生活について一言も触れていないのはおかしい、ワトソンが男ならそんなことを隠す必要は無いはず」、だとか、ある短編の中で、殺されたと思っていたホームズが不意にその姿を現した時、ワトソンが驚きと喜びで気を失いそうになる箇所を差して「いくら何でも大の男がそんなことで気を失うはずがない」と正直たわいもない論拠を羅列し「ワトソン愛人説」を主張している。

特に痛快なのがスタウトがある暗号解読の手法によって導き出したワトソンの女名前。乱歩の伝によると「ホームズの60篇の物語の題名を年代順に並べて、この中から神秘の数7と11だとか彼等がベーカー街に同棲した時のホームズの年齢27歳、ワトスン(遁注・原文ママ)の年齢26歳などの数によって題名を算えその順位に当るものを抜粋し」た11篇のタイトルを並べると

Illstrious C ienet
Red-headed League
Engineers Thumb
Norwood Builder
Empty Huose
Wisteria Lodge
Abbey Grange
Twisted Lip
Study in Scarlet
Orange Pips
Noble Bachelor

となり、この題名の頭1字を拾っていくと

IRENE WATSON

となり、つまりワトソンの女名前はアイリーンである、というもの。単なるオカルトですなこれは。

しかしこの説は1940年代当時かなりの反響を呼んだらしく、「なるほど」と同意する者、「神聖なるホームズを汚辱している」と異を唱える者と喧々諤々の議論が繰り広げられたそうだ。最後には最初女性として登場したワトソンは途中で兄のワトソンと入れ替わったなどという「ワトソン2人説」まで飛び出したというから大笑いである。

何だかんだ云っても所詮は小説の中のお話、数々の説を唱えた人々が皆本気でそのことを信じていたとはとても思えないし、事実乱歩もこのエッセイの最後を「さて次にはどのような珍説が飛び出すことであろうか」という文章で締めくくっている。
架空の世界を面白がる人々を面白がる、何とも楽しい話ではないか。

これを読んでまず思い出したのが、ビートルズマニアによる「ポール死亡説」。
解散も目前の'60年代末、どこぞの学生たちが「現在ビートルズにいるのはポールの偽物であり、本人は既に死亡している」と唱え、あっという間に全世界に広がったこれまた珍説といえば珍説。あまりの大騒ぎに休暇中だったポールが「私は生きている」と声明を出したと云うからその反響の大きさがうかがえる。似たような例として我が国でも「水割りをくださ~い~」の「堀江淳死亡説」ってのがありましたな。これも本人がラジオ出演して生存を主張、だが「いやいや、あれは偽物だった」などとますます死亡説が盛り上がったりして・・・あ、最近「志村けん死亡説」も・・・・いやいや、ま、これは置いといて。「ポール死亡説」、これはとにかく有名な話ですな。

で、彼らが論拠としたのが「Strawberry Fields Forever」のエンディングにジョンの「I buried Paul」(私はポールを埋葬した)という声が入っているだとか、「Abbey Road」のジャケ写は葬式
の風景の暗示であり、横断歩道を渡るメンバー中、ポールだけが裸足なのは彼が死者であることを表している、なんてな話。
同じく「Abbey~」のジャケ写で左手に写るワーゲンのナンバーが「28 IF」なのは「ポールがもし生きていたら28歳だった」という意味だ、なんてのもありましたな。

今でこそ笑って済ませるけれど、この話を本で初めて知った15,6の頃、本当に気持ち悪いモノを感じたりした。
だって「I burried Paul」って確かにそう聴こえるもの。しかもジョンの声が不気味なんだな、これが。

まぁ、皆さんご存じの通り、ジョンは「Cranbberry Sauce」って云ったってのが真相らしいけれど、いやぁ、今聴いても
「I burried Paul」の方が近い気がするのだがどうか。当時バンド内でリーダーヅラしつつあったポールに対するジョンの皮肉だったのではっていうのはちと考え過ぎか。これじゃあ件のシャーロキアンやビートルズマニアの学生たちと変わらんか。

まあ、とにかく。
お偉い学説ひとつ取ってみたって、まず先に仮説というか自分が導き出したい結論があって、それを証明するために論拠を積み上げていくというのが一般的なわけで、その積み上げ方が上手だった学者さんが偉いってわけでしょ。今回のホームズ学者、ビートル学者さんは初めから重なる訳のないボールを無理矢理串刺しにしたり接着剤やらでくっつけたりして仮説に結びつけたって感じですか。もちろん、自分でも苦しいこじつけだってわかってるのにオカルトを持ち出したりして、その課程を楽しんでいたんだろうし。でも
こういうデマだとか珍説ってのは嘘とわかっていても他人に広めたくなる面白いストーリーが無ければ影響なんて及ば
ないわけで、片や欧米のホームズマニア、片や世界のビートルマニアに論を知らしめることが出来たってことは、これはこれで優れた学説(?)って云えるのかもしれませんな。

でもホントに怖がってしまった若かりし私みたいな人もいたわけだし、小説中の人物ホームズの場合は良しとしても、
勝手に死んだものとされてしまったポールや堀江淳、志村けんにとってはとんでもなく迷惑な話である。

・・・何とかもっともらしい結論をと考えていたらこんなつまらん正論を吐いてしまった。
(98.9.3.記)

珍説万歳

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kakou

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メンデルスゾーンの

  • 翻訳blog | Tracked: 09.12.1 2:08 pm

 私は右の表[シャーロック・ホームズの特異点 1~12]で彼のヴァイオリンの腕前に触れた。これはすばらしいものだったが、ほかの才能と同じようにすこぶる片寄っていた。彼がさまざまの曲...

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