夏の終わりに観るにふさわしい映画。そんな
あの夏、いちばん静かな海:北野武
そうでした、夏の終わりです。江ノ島あるいは近隣の海のサーファーたちは「おか」に上がったでしょうか? 否、更なる波のうねりを待望し、海に繰り出しているのかも。
そんな海の沖合いを、一枚のサーフボードがゆらゆらと流れてゆきます。その静かな映像のイメージはそのまま、映画『あの夏、いちばん静かな海』(1991)(予告篇)の優しく慈愛に満ちた、この静かな恋愛映画の全体のイメージと重なり合います。
ひとりの青年が海を見つめながら、海岸沿いで壊れたサーフボードを発見する。そんな映画冒頭の映像に満ちる“静かな海”の印象から開始されるこの作品、監督としての北野武のものを見る眼の確かさ、きちんと何が“愛”なのか、観客にしっかりと印象づける姿勢に、私は感動していました。
深作欣ニの監督降板を受け、主演俳優でありながら同時に監督にも挑んだビートたけし=北野武。その作品が『その男、凶暴につき』(1989)。たしかに表題に恥じぬ彼の演技の凶暴ぶり。でもそこに私は、そんな演技者としての自身を冷静に見つめる、監督としてのもうひとりの北野武を見ていました。その客観的な眼が、映画内で展開されるホントに身もふたも無いような暴力をクールで透明なものに変容させていて、私はそれが好きでした。
そして、実質上の初監督作品・『3-4x10月(さんたいよんえっくすじゅうがつ)』(1990)を経て挑んだのが、この『あの夏・・』でした。世の人は驚きました。一転して叙情的な優しさに満ちた世界が展開されていたからです。でも私はふたつの作品にある共通のものを発見し、それほど驚きませんでした。
少しがに股気味に歩く、それもひたすら街を“歩く”刑事と、ふたりでサーフボードの両端を持ち、あるいはときには距離を取り合いながら、でも、やはりここでも“歩いて”ゆく青年と少女。その“歩き”の演出の同質性にホントに驚き、そこに紛れもなく優れた演出家としての北野武を見出したのでした。
なんのこと? とお思いでしょう。でも、この作品のなかでふたりの若い男女が睦み合い、ときに離反し、でもまた仲良く歩いてゆく姿をじっと観ているだけでも、十分に北野監督の意図が伝わってくると思います。もちろん、サーフ、サーファーの映画としても興味深い作品だと感じます。
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