聴覚を通じて魂を沈潜させる行為。そんな
ブラームス・間奏曲集:G・グールド
ようやく秋の兆しが見えて来ました。夜のしじまに包まれる時間が、部屋を濃密に満たすようになるでしょう。そんなとき、私はよくグレン・グールドの弾くブラームスを聴きます。その「10曲の間奏曲集(10 intermezzi)」ほかを収めたCDです。50歳代を過ぎたブラームスの後期の作品群です。
「間奏曲」とはブラームスの場合、音による「エッセイ(随筆)」の意味合いが強い。どの曲も長くて6分弱、2分強で終わる曲も。彼も晩年にさしかかり、これまでの自分の書法(音楽の書き方)をこんな小さな随筆で回顧しているように私には思えます。どの曲もゆったりとした速度で、そのほとんどに孤独感・寂寥感が漂います。徐々に長くなる夜、かけっぱなしで手仕事をしてもいいし、こころ深く自分のなかに沈潜しながら聴いてもいい。ふと気付くと、純粋な音楽的持続のなかにいる自分に気付かされます。
グールドがスタジオで念入りに創り上げた孤独な音のしじま、とでも言うのでしょうか・・・。
音楽技法のことにも少々触れますが、ご容赦を!!
・・・・
1.「間奏曲変ホ長調」(以下、〃で)OP117-1: 中間部をのぞき、冒頭からつねに「ミ♭」(変ホ長調の最初の音=主音)の音が全体を縫うように、静かに鳴り響いています。「オルゲルプンクト」と呼ばれるオルガン音楽でよく使われる手法。ブラームスは北ドイツ、ハンブルグの出身。先輩に「カノン」で有名なパッヘルベルがいて、彼は本来、オルガン音楽の作曲家として有名でした。子供のころからブラームスはこれを聴いていて、その影響かも?
2.「〃変ロ短調」OP117-2: 水が流れるような優美なモデラートの曲です。その流れが和声的な音の動きでせき止められ、再び流れ始める。動と静の対比。グールドは“静”の和声的部分から対位法的な音の線の輪郭をくっきりと浮き彫りにしていて、見事です。
3.「〃嬰ハ短調」OP117-3: これぞブラームス!! 両手による分厚い響きのなかに、渋く沈鬱な旋律が歌われる。中間部では嬰ハ短調の近親調のイ長調になり、そこで明るい薄日が差します。こんな暗と明の対比がブラームスの音楽の魅力です。グールドは重苦しくなりがちなこの曲を速めの速度で弾き、音楽を停滞させません。
4.「〃変ホ短調」OP118-6: これぞさらにブラームス!! 「間奏曲集」全体で最も渋く、彼のため息のような心の伸吟がそのまま反映されている、そんな音楽。グールドがこれ以上は不可能なほど、ピアノの音色の微細なニュアンス付けを行い、見事です。
5.「〃ホ長調」OP116-4: この曲でもグールドの丹念なニュアンスのつけ方が美しい。
6.「〃イ短調」OP76-7: ブラームスお得意の、「静」の音楽から僅かな動きのある音楽への移行。そこに音楽的な流れが生まれます。和声の連なりから旋律を発生する。そのお手本のような過程が聴きとれます。
7.「〃イ長調」OP76-6: 「間奏曲集」中でもっとも動きのある曲。楽譜を見てみると、いかにもブラームス!!、ってな書法(音符の書き方)なんです。右手による三連符の1拍のなかに左手の2拍を合わせる、いわゆるポリリズム(2種類のリズムを同時に重ねること:複リズム)の音楽。しかもシンコペーションでずれ合いながら音楽が進行します。グールドのリズム感の良さが際立っています。
8.「〃ロ短調」OP119-1: かつて映画『ヴィトゲンシュタイン』(デレク・ジャーマン監督 英国)の冒頭で流れていたのが印象的でした。「間奏曲」集でブラームスが書いたラストの巻の第1曲。この曲の書法を、後の現代音楽の祖、アーノルド・シェーンベルグがほぼそっくり、模倣しています(シェーンベルグ・「3つのピアノ曲集」OP11)。まるで自分の音楽の初期の書法は、ブラームスから来ているんだって証しているように見えます。
9.「〃イ短調」OP118-1: 一聴すると「ハ長調」にも「イ短調」にも聴こえる、不思議な曲調の音楽。
10.「〃イ長調」OP118-2: 「間奏曲集」でもっとも優美な旋律の曲。まるでピアノで“歌う”リートです。上記画像にこの曲の楽譜を写しておきましたが、このブラームスの書法は「四声書体」と呼ばれ、「弦楽四重奏曲」の4つのパートを、そのままピアノに移し変えている音楽の書き方なんです。逆に、このまま弦の四人用にパートを書き分けると、そのまま「弦楽四重奏曲」にもなるんです。
そんな理屈はともかく、集中で私が最も好きな曲です。
・・・
後半に『4つのバラード』OP10よりの2曲、『2つのラプソディ』OP79 を収録。
http://store.shopping.yahoo.co.jp/...
- アルバム名:ブラームス・間奏曲集/4つのバラードより/2つのラプソディ グレン・グールド(Pf)
- 発売元: SONY:録音年代・1960~1980
- 価格: ¥1680
- 2010/09/09登録
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コメント (2)
2010/09/11
もえぎ 118-2 は、明け方の黎明のような光が感じられて大好きです。 昨秋、このアルバムを聴きながら義母の入院する病院までの90分近い道のりを車で往復していました。義母は他界しましたが、秋になるとこのインテルメッツオはよく聴いています。いつぞやの、太宰治の生誕100年記念番組か、太田治子さんの回想番組だったかでも この間奏曲集アルバムが延延流れておりました。最近では、坂本龍一さんの推薦アルバムにもなっているのだとか?この春のラ・フォルジュルネ:ショパンの会場地下ピアノブースでも、これをぽろぽろと弾いていらっしゃる方がいて、微笑みました。
anoano 晩秋の木々の寂寥の色合いには、この曲集の内省的な小宇宙がマッチするように思えます。もえぎ様のお義母へのお気持ちとこの曲集のご選択の間には、何か通底するものを感じました。はなはだ僭越ではありますが・・・。リンクの番組もそうかもしれません。太田さんの番組ではOP117-1が流れていましたね。興味深いのはやはりNHKの「日本朗読紀行」という番組(『斜陽』の朗読劇・朗読者・田中裕子)の回でも、この曲がバックに使用されていました。「太宰治=ブラームス・間奏曲」。なかなか渋いコンビネーションでは?(笑)。坂本さんのは『グレン・グールド 坂本龍一セレクション』。やはり作曲家!! 鋭い選択です。118-2。私もこの曲!! なのです。さてさて、秋の夜長はブラームスの室内楽、と洒落込みませんか? お互い、、、(笑)。
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