ふくししほんしゅぎのみっつのせかい
福祉資本主義の三つの世界 (MINERVA福祉ライブラリー)
大ざっぱに言って、福祉のやり方(というか、福祉国家のやり方)には3つある。
一つ目は、できるだけ何もしないこと。それなしには確実に死んでしまう人を、所得や財産というふるいにかけて慎重に選び抜き、その人たちだけに、最低必要なものを(しばしば足りないこともあるが)提供するというやり方。
二つ目は、可能な限りすべての人のすべてのニーズをカバーすること。「あんたは○○だから、この制度の適用はうけられない」ということはやらない。みんなから同じだけの資金を集めて(同じプールにあつめて)、同じ条件なら同じだけ提供する。貧困も、病気も、介護も、育児も、ときには教育といったことについても、とにかくできるだけ広いニーズに対応する、そんなやり方。
三つ目は、システムを分けて対処するやり方。対象者ごとにお金のプールも配分ルールも分ける。サラリーマンの福祉システム、自営業者の福祉システム、農家の福祉システム、公務員の福祉システム、エトセトラ。ニーズごとにお金のプールも配分ルールも分ける。病気のためのプールとシステム、貧困のためのプールとシステム、失業のためのプールとシステム、エトセトラ。とにかく分けるそういうやり方。
詳しいことは省くが、第1の典型が英米で(イギリスはちょっと違うけど)、第2はスウェーデンなどの北欧諸国で、第3はドイツが典型といえば、少しはイメージしやすいかもしれない。
それぞれの福祉システムの帰結をまとめると、こんな感じになる(以下の順番は、歴史的な登場の順番だと思いねえ)。
第1のやり方だと、福祉の対象になるのは「特別なひと」に限られる。だから福祉がスティグマとなる。福祉にかかることが忌まれ、嫌われる。何かよくないことのように思われる。
第3のやり方だと、それぞれのシステムが対象としている集団がいる。もともとは、ビスマルクあたりが資本主義もいやだが社会主義もいやだ、だったらこっちのグループを抱き込んじゃえ、あっちのグループをひいきしちゃえ、と始めたやり方だが(これが最初の「福祉国家」である)だから、それぞれの集団の間の断絶、いがみあいが起こるのは必須である。なんであいつらだけが、という話にすぐになる。制度が変更されるたびに、別のところで「ひがみ」が生じる。互いに足を引っ張り合って、福祉の水準は上がらない。ちがうシステムで対処すると、対象者グループの分裂が再生産され、対立も再生産される。
第2のシステムは、こりゃいかんと、みんなが同一システムに入ることを要とする。さっきとは反対に、同じ福祉システムで対処するなら、同じひとつのグループが再生産される。つまり福祉もその対処者も特別でない。たくさんのお金が福祉システムを通じて分配されるので、金持ちと貧乏人が減っていく。中間階級が再生産されて、自らを生み出した福祉システムはますます「あたりまえのこと」と見なされる。福祉を向上させることは、みんなの得になる(誰かだけ、のとくではない)ので、高福祉でもだれも「ひがむ」ことをしない。
(めちゃくちゃ乱暴なまとめだから信用してもらっては困るが)、エピスン=アンデルセンのキモは、福祉のやり方のちがいで、国家と資本主義のあり方(再生産のパターン)がかなりの程度わかってしまうんではないか、ということだ。あちこちの資本主義が、どうにも一つと思えないのなら、このシンプルな整理はなかなか胸に落ちるところがある。グローバリゼーションなんていう連中は、「おまえらがガタガタ言おうが、遅かれ早かれこうなるんだよ」と言ってくる。いまだに唯物史観や産業化論が生き続けているみたいだ。どうかもう少しだけ、彼らに複雑さを与えたまえ。そして警察あがりの危機管理おじさんには、単なるリスクを与えたまえ。
そうして、少なくとも冒頭あげた福祉に関する食い違うイメージの源泉がどんなところにあるのかも、なんとなくわかる。
ちなみに、日本は第1のやり方と第3のやり方の混合だという。これにはもちろん反論があるが、いたずらに日本を独自パターンに当てはめるよりは、ちくわの穴の向こうがみえるようで、ずっとすっきりする。
- 商品名: 福祉資本主義の三つの世界 (MINERVA福祉ライブラリー)
- 価格: ¥3,570
- 著者: イエスタ エスピン‐アンデルセン
- 出版社: ミネルヴァ書房
- 発売日: 2001-06
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- 2007/08/30更新
- 2003/02/07登録
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コメント (2)
2003/02/10
結城浩 面白い。二番目のやり方は「コモンズの悲劇」を生みそうな。
2003/03/08
Poughkeepsie 為になります。「喰いものにしてる連中」の問題は、あまりにひどくて…
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