嗚呼、そのまなざしで魅了する女(ひと)。そんな
高橋マリ子:きりぎりす・太宰治短編小説集
1月1日(土)TV放送有り(NHK.BS2/午前2:30より)。 嗚呼ッ、貴女が「わたくし、お別れいたします」、と画面のむこうから自然な、けれども決然としたまなざしを私に向けたとき、私の胸は千路に乱れたのでした。高橋マリ子さん!! モダンな柄の和服にひっつめ髪の貴女は、卵のようなかたちのよいお顔の輪郭に、聡明そうなけれどもやや憂いを帯びた切れ長の眼をして、語りかけました。そして当然のことながら、貴女の同様に美しいかたちの唇から発せられたその言葉の相手は私ではなく、貴女の連れ合いの画家だったのです。
太宰治の短編「きりぎりす」の朗読劇(詳細情報)での貴女は、やや舌足らずなエロキューションでありながら、貴女がかくあるべきと抱くそのイデアルな姿からどんどん変貌をとげる夫に絶望する妻を、微細なお顔の表情の濃淡で補いつつ、太宰のこの短編がもつエッセンスをきちんと、その身体によってトレースされていました。
貴女が暮らしをともにする男は、その男が駄目だからこそいい。「わたしはあなたがこの世で絶対に出世なんかしないひとだからこそ、あなたのもとに来たのです」。太宰治は、いわばこの「結婚」なるものが孕むかもしれない、価値の転倒と背理を希む妻に、清心ななにものかを託したのだと、私には思えます。
「駄目」だってことは自分を飾らないってこと、堕ちるとこまで落っこっても、ひとに阿(おもね)ることがない。いわば、ひとに残された精神の自由の砦です。ところが、そこから「蟻ときりぎりす」の蟻のように地に堕ちてゆく夫に貴女は宣告します、「あなたはただのひとです!!」。
高橋マリ子さん。夫の“堕落”を尻目に、頬杖をついてアンニュイなまなざしを送る貴女。三行半(みくだりはん)の台詞を突きつけたときの、かすかな怒りの色を湛えた眼に、私はすっかり魅了されてしまったのでした。
虚構の身体から離脱したリアル高橋マリ子の耳にも就寝中、「背骨のなかで鳴くきりぎりす」の声が果たして聞えているのでしょうか?
田島櫻子・演出。
http://cgi4.nhk.or.jp/hensei/program/...
- 番組名:「きりぎりす」・太宰治短編小説集:(出演)高橋マリ子ほか
- 放送チャンネル:NHK BS2
- 放送日時:1月1日(土)午前2:35~3:00(25分)
- 商品名: きりぎりす (新潮文庫)
- 価格: ¥540
- 著者: 太宰 治
- 出版社: 新潮社
- 発売日: 1974-09
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- 2010/12/31更新
- 2010/09/17登録
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最新コメント5件
2010/09/17
駄目ねこ CUTiEとかに出ていた頃からすきです。お人形みたいになにかひんやりしてるんですよね。
anoano むかし原節子が登場したとき、こんなカンジじゃなかったですかネ(古ww...、唐突ですが。あッ、お人形=おにんぎょさん、ネ。それぴったしかんかん(笑)。
anoano 駄目ねこさん、追加。彼女の出ていた映画、私も観てましたワ。『世界の終わりという名の雑貨店』(嶽本野ばら、原作の)、『凶気の桜』(窪塚洋介の恋人役)。なんか顔が変わってないのですよ。その意味でもおにんぎょさん(笑)。
駄目ねこ 原節子さんって見たことありません。おすすめの作品ありますか?わたしもその2つの映画、観ましたよ。なんだか心が見えないかんじなのですよねぇ。
anoano やはり『晩春』(小津安二郎監督)ですかね。ここでの原節子は美しいです。そのかんじ、わかりますよ、すごく。感情を露わにしない。この「きりぎりす」でも、わずかに表情が変化するだけ。だから、「別れる」って言われたら「ええェ、、どして??」って男は怖いと思うのです。
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